東京ライフスタイル探訪

【vol.6 明治神宮前】ファッションカルチャーの渦中で送る、煌びやかな暮らし

皆さまこんにちは。東京の街を愛する宅地建物取引士、伊勢谷(いせたに)です。こちらの連載では東京の様々な街を “暮らす目線” と “不動産屋目線” でご紹介していきます。

ファッションカルチャーを牽引  時系列で見る街の歴史

今回訪れたのは「明治神宮前」駅。東京メトロ千代田線が乗り入れ、「原宿」駅と交差していることから山手線も利用できます。今回は『渋谷区神宮前』というアドレスに忠実に取材・調査していこうと思います。

 

まずは『渋谷区神宮前』を地図上で確認してみましょう。渋谷・表参道・外苑前・北参道に囲まれ、場所によって最寄駅は変わります。

▲アドレス内を南北に走るのが明治通り、横に突っ切るのがケヤキ並木が美しい表参道です。

 

1889年に「穏田(おんでん)神社」に由来する『穏田村』と、『原宿村』・『千駄ヶ谷村』の3つを合わせて『千駄ヶ谷村』となり、1906年には「原宿」駅が開業。1920年に「明治神宮」が創建され、1927年に「同潤会青山アパートメント」(跡地に現「表参道ヒルズ」)が竣工、宅地化に加速がかかります。

▲左上・かつての『穏田村』の由来となった「穏田神社」は旧渋谷川遊歩道路(通称:キャットストリート)の裏側にひっそりと現存しており、商店街の名前としても残っています。キャットストリートって、渋谷川を暗渠化した後にできた道なんですね。/右上・2020年に建て替わったJR「原宿」駅。跡地は現在更地となっていますが、つい先日、商業施設として整備しながら旧駅舎の外観を再現することが発表されたばかり。/下・表参道沿い、旧同潤会アパートがあった場所に2006年開業した「表参道ヒルズ」。

 

1945年の終戦後に代々木駐屯地が接収されワシントンハイツを建設、アメリカ文化が根付いていきます。街の風紀が乱れていくことを防止するため、1957年に原宿、代々木、千駄ヶ谷一体は都内初となる “文教地区” の指定を受け、街の健全さが保たれるようになりました。1958年に明治通りと表参道の交差点に「セントラルアパート」が竣工(跡地に現「東急プラザ表参道原宿」)。若手クリエイターたちが事務所を構え、新たな文化の発信地となります。

▲左・1978年の開業以来、現在もファッションビルとして多くの人が訪れる「ラフォーレ原宿」。隣にはかつてドライブインレストランがあったというから驚き。/右上・神宮前交差点の角、2024年4月に開業したばかりの「東急プラザ原宿『ハラカド』」。なんと地下1階には高円寺の人気銭湯「小杉湯」が入っているそう。/右下・いつ足を運んでも賑わっている「表参道」。

 

1964年に開催された東京五輪が街の発展に拍車をかけます。ワシントンハイツはアメリカから返還され、跡地に「国立代々木競技場」が建設され、NHKが移転し、文化人や芸能人も街へ訪れるようになります。翌1965年に一帯の町名が『神宮前』となりましたが、理由はご想像の通り、「明治神宮」の前に街が広がっているためです。

▲上・いつ見ても美しい「国立代々木競技場 第一・第二体育館」は、建築界の巨匠・丹下健三氏によって設計され、東京五輪開催の1964年に竣工しました。/下・街の玄関口、神宮橋交差点には、“日本初の億ション” と言われる「コープオリンピア」が現在も堂々と建っています。五輪翌年の1965年竣工。

 

1970年台になると地下鉄駅「明治神宮前」「表参道」が開業、 “竹の子族” の台頭、ファッションビル「ラフォーレ原宿」開業、セレクトショップ「BEAMS」が本社を構えるなど数々のアパレルブランドが立ち上がり、雑誌が次々『原宿特集』を組むようになります。こうして神宮前は “ファッションの街” としての立ち位置を確立していったのです。

▲左上・竹下通りはいつ行っても観光客と若者でぎっしり。/右上・キャットストリートも平日昼間でこの賑わい。/左下・日本を代表するセレクトショップ「BEAMS」がこの地に本社を構えたのは1976年のこと。その後1990年代には「UNITED ARROWS」「IENA」「FREE’S SHOP」なども本社を置きました。/右下・2020年に開業した「MIYASHITA PARK」の敷地約半分も神宮前アドレス(あとの半分は渋谷区渋谷1丁目)。
 

街を見守る鎮守の森と  広大な都会のオアシス

さて、街の歴史を勉強したところでまずは「明治神宮」と「代々木公園」に行ってみましょう。しかし実はこのふたつ、いずれもアドレスの大部分は『渋谷区代々木神園町』というんです。

▲「一の鳥居」をくぐったあと、本殿に辿り着くまでに長く神聖な道のりを歩きます。鎮守の森は全国から献木された約10万本を植栽し、“永遠の杜” を目指して造成された人工林です。
 

▲「代々木公園」は都立公園の中で5番目に広く、約54万㎡もの敷地面積を誇ります。森林公園と、陸上競技場や野外ステージを備えたふたつの地区に分かれ、春にはお花見客で賑わいます。

 

神宮前にお住まいの方々にとって、このふたつがリフレッシュの場として大切な役割を担っているのは言うまでもありません。コロナ禍が明けてから一気に外国人の旅行者が増え、取材が桜の時期と重なったこともあり、いずれも大変な賑わいでした。

ヴィンテージマンションの宝庫  高級感溢れる築浅マンションも

筆者はヴィンテージマンションやレトロな建物が大好きなのですが、神宮前はそういった建物の宝庫といえます。前述したように1927年に竣工した「同潤会青山アパートメント」から宅地として開発されはじめ、日本の “マンション黎明期” の建物がたくさん残っているのです。その一部をご紹介しますね。

まず、ヴィンテージマンションマニアの中では言わずと知れた傑作『ビラシリーズ』のマンションたち。デベロッパーは興和商事。ここまでくると最早アート作品のようで、きっとコレクター気質の方々が所有されているのではないかと勝手に想像しています(とっても羨ましいです)。

▲左上・「ビラ・ビアンカ(白い館)」(1964年4月竣工・堀田英二設計)/右上・「ビラ・セレーナ(静寂の館)」(1971年6月・坂倉建築研究所設計)/左下・「ビラ・フレスカ(フレッシュな館)」(1972年8月・坂倉建築研究所設計)/右下・「ビラ・グロリア(栄光の館)」(1972年9月・大谷研究室設計)

 

“犬も歩けば棒に当たる” ではないですが、魅力的なヴィンテージマンションは他にもたくさん。筆者と似たような志向性の方は、ぜひ街歩きとマンション探訪を楽しんでいただきたいです。

▲左上・記事冒頭でご紹介した「コープオリンピア」の隣に建つ「マンション31」(写真中央・1972年竣工)と、裏手に建つ「ベルテ表参道」(写真右・1981年竣工)/右上・明治通り沿い、「ビラ・ビアンカ」のお隣に建つ「原宿ビューパレー」(1970年竣工)/左下・原宿通り沿いに建つ「シャンボール原宿」(1972年竣工)/右下・外苑西通り沿い、神宮前三丁目交差点に建つ「秀和外苑レジデンス」(1967年竣工)

 

一方、築浅でラグジュアリーなマンションも複数建っています。まずご紹介したいのが原宿警察署の裏手、東郷神社の境内と溶け込むように建設されたふたつのマンション「ブリスベージュ神宮前」と「パークコート神宮前」です。

▲左・2008年竣工、地下1階付き地上9階建て、全88戸の「ブリスベージュ神宮前」。コンシェルジュサービスはもちろん、4重セキュリティ、エレベーター7機、プール&ジャグジー付きなど、まさに高級マンションと呼ぶに相応しい充実ぶりです。/右・池と東郷ラウンジ越しに顔を覗かせているのが「パークコート神宮前」。地主が東京都の借地権付きマンションで、2009年竣工、地下3階付き地上16階建て、全385戸の大規模レジデンスです。

 

近年建設された中でも注目なのが「ザ・コート神宮外苑」。「外苑ハウス」というマンションの建て替えにより2020年に竣工し、お隣にはあの「国立競技場」。その麓は「都立明治公園」として整備され、都立公園として初めて都市公園法に基づく公募設置管理制度(Park-PFI)を活用し、新たな公園の整備・管理運営を行っていくのだそう。

▲左・2020年竣工、地下1階付き地上23階建て、全409戸の「ザ・コート神宮外苑」。中古市場を調べてみると56㎡ほどで約1.8億円、80㎡ほどで約3.6億円と流石の価格帯でした。/右・「都立明治公園」は2024年1月下旬にオープンしたばかり。車が入れず芝生の面積も広いため、お子様を遊ばせるスポットとしても重宝しそう。

少し路地に入ると低層の住宅街  食品の調達は宅配を駆使すべし

ファッションや高級レジデンスなど華々しい街並みからは想像しにくいですが、実は少し表通りから外れると低層マンションや戸建てが並ぶ住宅街となっています。また当然ながら小学校や保育園などもあり、改めて “暮らしの場” でもあることを思い知ります。
 

▲左・神宮前5丁目の住宅街。顔を覗かせているのは渋谷1丁目にある「青山パークタワー」。/右・1997年竣工、地下1階付き地上5階建て、総戸数33戸の「インペリアル表参道」。
 

▲左・なんと表参道ヒルズの真裏にある「渋谷区立 神宮前小学校」。/右・キャットストリートから少し上った先にあるのが「渋谷区立 渋谷保育園」。これらにお子さまを通わせている親御さんはどんなお仕事をされてるんだろう? 通うお子さまは将来どんな人になるんだろう……と、余計な妄想が止まりません。

 

ただし “神宮前アドレス” の中でスーパーはほとんど見当たりません。青山通りまで出れば紀伊國屋、成城石井、ヴィルマルシェなど高級スーパーがありますが、そこまで出るのも少し億劫。食品の宅配サービスなどを利用すると便利そうです。
 

▲左・神宮前3丁目、「原宿幼稚園」のお隣にある「Bio c’Bon(ビオ・セボン)外苑西通り店」。/右・原宿通り沿いにある「まいばすけっと 神宮前2丁目商店会店」。
 

中古市場は築浅大規模レジデンスの取引が中心  土地・戸建ては数億円の世界

では神宮前に住みたい場合、どういった住まいの選択肢があるでしょうか。以下のマップは過去3年間、『渋谷区神宮前』アドレスで成約した中古マンションの数を筆者が独自にまとめたものです。そして先にお伝えしておくと、なんと土地・戸建ては成約の登録が「0(ゼロ)」でした。驚きです。

▲東日本流通機構(REINS)に登録された、過去3年間(2021/4/1-2024/3/31)の中古マンションの成約事例を集計したもの(専有面積40㎡以上 / オーナーチェンジ物件を除く)。未登録物件はカウントしていないため、全成約を網羅できているものではないことをご了承いただいた上で、ご参考までにご覧ください。

 


成約の内容を詳しく見てみると、まず『神宮前1〜3丁目』に数が集中していることが分かります。また神宮前1丁目では全14の内13件が「パークコート神宮前」、神宮前2丁目では全23件の内12件が「ザ・コート神宮前」、神宮前3丁目は全17件の内7件が「ザ・神宮前レジデンス」で、特定のマンションに成約が偏っていることが分かりました。いずれも総戸数200戸超えの築浅、大規模レジデンスです。

なお、土地・戸建てについては販売中のものも確認しました。すると土地の売り出しは2024年4月現在9件で、平均面積は204㎡、平均価格は約9億円、平均坪単価は約1,440万円。戸建ての売り出しは3件で、平均延べ床面積は118.72㎡、平均価格は3億円、平均坪単価は約1,100万円でした。まさに選ばれし者だけが検討の土台に上げられる、といった印象です。

まとめ

取材と調査を元にまとめた「明治神宮前」のポイントは以下の3つ。

・都会的で刺激的な暮らしを求める方向き
・最先端のファッションカルチャーにどっぷり心酔できる
・マンションを中心に探すと出会いやすい

今回の取材を通じてアドレス内をくまなく歩きましたが、アパレル関係のお仕事をされている方が多く、さらにファッション目当てで街を訪れる方が多いため、オシャレを楽しんでいる方とすれ違うことが非常に多かったです。いざ住み始めると肩の力が抜けるとは思いますが、筆者もいつもより気合いを入れてお洋服を選んで向かいました(笑)

渋谷区の用途地域を確認すると、明治通り沿いや表参道沿いは商業地域に指定されており、アドレス内を縫うように近隣商業地域もあるものの、その他の大部分は第一種住居地域、第一種・第二種中高層住居専用地域などに指定されています。とはいえ『え、こんなところに学校が!』『調べてもスーパーが無いなぁ、でもそうだよね』という感じで、“生活感” はあまり感じられませんでした。それが街の魅力であり、そんな環境を楽しんでいける方に向いているのだと思います。

おまけ 〜わたしの取材メシ〜

神宮前のお気に入りといえば「J-COOK(ジェイクック)」。雑誌で見て初めて知ったのですが、かつての同僚(ファッション大好きボーイ)も常連だと知って訪れたのが数年前。半地下のような入口ですが、中に入るとサンルームから日が差し込むとても居心地のいい空間で、ご夫婦で切り盛りされているお姿を見るだけでも癒されます。ショッピングに疲れた際はぜひ訪れてみてください。コーヒー1杯からOKとのこと!
 

▲上・奥さまに「写真を撮ってもいいですか?」と伺うと快く応じてくださいました。お会計の時に小話をして、再び街歩きへ出発。どうかいつまでもお元気で!/左下・入口は建物の少し奥まった場所にあります。/右下・この日のランチはカボチャのスープ、サラダ、ウイーン風カツレツ。寒かったのでスープが沁みました。美味しかったです、ご馳走様でした!

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