【vol.1 自由が丘】すずらんのような、甘い香りのする街
皆さまこんにちは。東京の街を愛する宅地建物取引士、伊勢谷(いせたに)です。こちらの連載では東京の様々な街を “暮らす目線” と “不動産屋目線” でご紹介していきます。
自由が丘ってどんな街? どんな暮らしが送れそう?
皆さまこんにちは。東京の街を愛する宅地建物取引士、伊勢谷(いせたに)です。こちらの連載では東京の様々な街を “暮らす目線” と “不動産屋目線” でご紹介していきます。
1920年代に東急東横線や大井町線が開通し、渋谷などの都心部から程よい距離なこともあり、著名人が次々邸宅を構え、ハイソな街としてのイメージが定着した自由が丘。2000年代にはスイーツブームが到来し、日本全国から “憧れの街” として注目を集めてきました。
実際に訪れると『女性に好まれそうな街』という印象を抱きます。それは、①インテリアや日用品を扱うライフスタイルショップが多いこと、②スイーツ専門店が多いこと、③美容系のお店が多いこと、④アパレルのセレクトショップ(古くはブティック)が多いことが理由なんじゃないかと思います。
左上・3階建ての「IDEE SHOP Jiyugaoka」はイデーの世界観をトータルに表現する旗艦店。/右上・調味料や文具なども扱う「TODAY’S SPECIAL Jiyugaoka」。/左下・「JIYUGAOKA de aone(デュ アオーネ)」の中に誕生した生活雑貨・食品の「Three little song birds」。/右下・九品仏川緑道沿いにある「MONCEAU FLEURS(モンソーフルール)自由が丘本店」。
①のライフスタイルショップは感度の高いオリジナルプロダクトや、プロがセレクトした品々が“ちょっと背伸びすれば手が届きそうな価格帯” で手に入るのがうれしい。②のスイーツ専門店は日々のちょっとしたご褒美や、どこかへ訪問する際の手土産にも。③の美容院・ネイル・エステなど、女性がセルフメンテナンスのために通いたくなるお店もたくさんあります。これらのショップが街中に点在し、回遊したくなる街づくりがされているのです。
そんな街づくりの秘訣とも言えそうなのが、12ある商店街が「自由が丘振興組合」として団結し、1963年から街全体を運営していること。毎年10月に数十万人が集まる「女神祭り」などのイベントや、後述する再開発に関しても、こういった屋台骨の存在があるからこそ、住み良い街、人が訪れたくなる街がつくられているのでしょうね。
『すずらん』とイメージしたのは、商店街の結束や数々の路地が茎となり、そこへたくさんのショップが花を咲かせているから。白と緑の2色で構成され、清潔感たっぷり。白くて可愛いフォルムは、可憐で凛とした街のイメージとも重なります。
取材時はベビーカーをひいたママたちの姿もたくさん見かけました。好きなお店をいくつかまわり、緑道やカフェでちょっと休憩して帰る……子育ての息抜きにちょうどいいサイズ感の街なのかもしれません。
上・九品仏川緑道沿いを歩く親子連れ。街に緑道やベンチがあるって素晴らしい! 夕暮れ時に訪れると、女子高生からおじいちゃんおばあちゃんまで、本当に様々な年代の方が憩っていました。/左下・同店初となるカフェスタイルで2022年4月にオープンした「ONIBUS COFFEE(オニバスコーヒー) Jiyugaoka」。テラス席があるとママは大助かりなのです。/右下・スタバでは、店内で休憩するママの姿も。
わたし自身も11ヶ月の娘を育てるママですが、親の観点から自由が丘に抱く不満点がひとつだけ・・・。それは、車道と歩道がしっかり分かれた道が少なく、歩くのが怖いこと!
細い路地を縫うように走るバス。駅前は荷解きのトラックが路駐していることも多く、いつもキョロキョロしていないと車に轢かれるんではないかとヒヤヒヤしてしまいます。
そんな恐怖を感じていたのはわたしだけではなかったようで、最近はじまった再開発計画によって歩行者にも安心な駅前へ変貌を遂げていく予定なのだそう。
左上・「自由が丘一丁目29番地区」完成イメージパース/右上「自由が丘一丁目29番地区」位置図(出典:左上・右上ともに目黒区地区整備課)/左下・現在の工事の様子。目黒区から発表されている再開発計画では、ロータリーの向こうに写る西区画・北区画も都市計画が決定しています。/右下・工事現場の仮囲いに貼られた店舗移転マップ。
後で詳しく説明しますが、自由が丘は目黒通り(北側)と環八(南側)に挟まれた立地で、駅前は細い路地が密集し、そこをバスが往来しています。再開発によってそれらの路地が完全になくなることはないと思いますが、それでも今回着工している「自由が丘一丁目29番地区」によって、一定歩きやすくなってくれることに期待です。
さて、そんな再開発のお話とはちょっとズレますが、最近話題になっているのが、駅前にあったスーパー「ピーコック自由が丘店」の跡地に完成した「JIYUGAOKA de aone(自由が丘 デュ アオーネ)」。運営しているのはイオンモールです。オープンしたての店舗に行ってきました!
“自由が丘らしいな” と感じる全26のショップが入っており、地下2階にはピーコックも復活。買い物客で大賑わいでした。特に屋上デッキが気持ちよかったので、新たなリフレッシュスポットとしてもオススメです。
3階のテラスには誰でも使えるテーブルとベンチが。少し奥まったスペースにはゴロンと足を伸ばせるベンチチェアも用意されています。屋上には「Harappa」と名付けられたスペース(ネーミングから想像するよりコンパクトな場所でした)。晴れた日には遠くに富士山が見えますよ◎
さて、ここからはちょっと不動産屋っぽい目線で街について分析してみましたのでお付き合いください。
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交通アクセス
電車・バス
東急東横線と東急大井町線の2路線が通っています。主要駅への乗車時間は以下の通り。
ちなみに通行人や車の悩みの種となっているものがもうひとつ。それは踏切。
駅付近の東横線の線路は高架になっているため、地上を走っているのは東急大井町線です。取材時も駅横の踏切では遮断機が降りるたびに人がどんどん溜まっていき、車通りのある場所では渋滞が起きていました。
しかしこちらも今後改良される見込みがあり、目黒区が2021年に鉄道立体交差化に向けた調査・検討費用を計上しています。すごい規模の工事になりそうですが、早く実現してくれるといいですね。
上・平日16時半頃の駅前。バス停には長い列が。/下・目黒通り沿いもバスが頻繁に往来。
バスの行き先を見ると、ちょっとびっくり。実は駅前から出ているバスのほとんどは近隣の街へと人々を運んでいるのです。深沢、瀬田、田園調布、東京医療センター、駒沢大学駅、三軒茶屋駅、渋谷駅など。通勤通学の時間帯になると長い列をなし、駅から少し離れたところにお住まいの方々にとって、欠かせない足となっていることがよく分かります。
自動車
北側には目黒通り、南側には環八が通っています。高速道路を利用する場合、第三京浜の玉川ICまで車で約15分、首都高速・東名高速の用賀ICまで車で約20分です。
アドレス、都市計画
目黒区と世田谷区の区界
こちらの地図の通り、駅近くに区界があるのが特徴です。受けられる行政サービスなどが異なるので、その辺りを加味して住むエリアを決めるのがよいでしょう。それにしてもこう見ると、区の端っこに位置しているのがよく分かりますね。役所手続きのときは本庁舎ではなく、分室や出張所を活用するのが便利そう。
第一種低層住居専用地域が大半を占める
色のついていない部分が「第一種低層住居専用地域」に該当。
こちらは目黒区と世田谷区、両方が公表している都市計画図を筆者なりにざっくりとまとめたものです(詳細はこちらとこちらをご覧ください)。駅前こそ商業地域に指定されていますが、大通り沿いを除けば見事に「第一種低層住居専用地域」に指定されていることが分かります。
第一種低層住居専用地域: 良好な住環境を保護するため、主に1-2階建ての低層住宅しか建てられない地域。10mまたは12mの絶対高さの制限や、1mまたは1.5mの外壁後退距離制限などが設けられています。店舗や事務所を建築できないのも特徴。 |
つまり、新築マンションの建設は非常に難しいエリアということができますし、販売されれば高額かつ早めに買い手がついてしまいそうだな、と予想できます。中古マンションの場合は、駅近くの賑やかなエリアや大通り沿いを探すことが多くなるでしょう。
一方で土地・戸建てに関しても建ぺい率(土地面積に対する建物面積の割合)や容積率(土地面積に対する建物延べ床面積の割合)制限が設けられており、例えば自由が丘2丁目に『建ぺい率50%、容積率100%、高さの最高限度10m』の土地を100㎡購入したとしても、1フロア50㎡までしか建てられず、延べ床面積も100㎡に抑えなければいけません。高さの最高限度は10mですので、平均的には2階建て住宅までしか建てられないということになります。また敷地面積の最低限度も設けられており、その多くは70㎡もしくは80㎡となっています(それ以下の面積だと基本的に建物は新築できない)。
自由が丘駅周辺の坪単価は2023年11月現在約380万円。100m2(約30坪)の土地を購入すると、土地代だけで約1.1億円かかることになります。
坂道を歩く覚悟を
左上・駅方面から目黒通りへ向け上ってくる車たち。/右上・目黒通りから学園通りを駅方面へ下るところ。/左下・駅から奥沢方面に向かうのも上り坂。/右下・目黒通りを越えると、今度は深沢方面へ下り坂。
駅名に『丘』がついていることから “駅は高台にあるんだろうな” と思っていたらびっくり、実は自由が丘駅は『谷』にあるのです! 商業エリアを抜け、住宅街に足を踏み入れると実感します。そこまで急勾配ではありませんが、緩やかな坂道をながーく上る感覚でしょうか。ですが “暮らす目線” で考えると、家が高台に建っているのは日当たり面でもメリットがありますので、ここは軽く目を瞑っていただきたいところ。自転車を購入予定の方は、電動アシスト付きだと心強いでしょう(ベビーカーの時期は気合いですねっ!)。
駅から離れて検討するのもオススメ
先ほど『駅前はバスが頻繁に往来し、周辺エリアへの重要な足になっている』と記載した通り、不動産の購入価格を少しでも下げたい方はコンパスの円をぐるっと一周広くしてみるのもオススメです。
北側の目黒通りを越えると深沢、八雲、等々力アドレスになり、電車の駅こそありませんが、自転車があれば自由が丘駅まで15分圏内。「駒沢オリンピック公園」に近くなり、ゆったりとパークライフをお楽しみいただけそうです。
また南側は「多摩川」に近づき、こちらもまた自然豊かな暮らしが送れそう。検討駅を東西南に伸ばし、九品仏・奥沢・緑ヶ丘まで見てみると、意外な出会いが待っているかもしれません。
2020年から2022年の3年間に販売された土地価格平均を住所ごとにまとめてみましたので、ご参考までにどうぞ!
東日本不動産流通機構「REINS」から抽出した、各所在地の2020年1月1日-2022年12月31日までの成約物件まとめ。
面積、価格は所在地ごとに平均を算出しています。
教育環境・治安
塾や習い事に通うキッズ多数!
商業エリアを歩いていて驚いたのは塾の数! あっちにもこっちにも有名進学塾がたくさん。放課後の時間帯になると小学生から高校生まで、学生の数が街にドッと増えます。夜にはお迎えに来る保護者の数も多く、塾の前には人だかりが(路駐はご遠慮いただきたい……)。
一方で日中は保育士さんに見守られながらのびのび遊ぶ園児たち、夕暮れ時は緑道沿いの公園で遊ぶ子どもたちの姿も目撃。遊具のある公園が少ないのか、特に放課後は近隣の小学生たちで大賑わいでした。
まとめ
取材と調査を元にまとめた「自由が丘」のポイントは以下の3つ。
・女性が住んで楽しい街
・教育熱心なファミリー向き
・不動産価格はお高め(周辺エリアまで視野に入れるとやや下がる)
かつてわたし自身が仲介させていただいたお客さまも、しっかりと自立された女性単身(40代)の方でした。もう少し若い世代の方が東横線沿線で好むのは、最近だと中目黒・学芸大学あたりだと思いますが、やはり昔からのイメージが定着しているのか、40代以上の女性に好まれるようです。また戸建てや塾が多く、少し距離をいけば「駒沢オリンピック公園」や「多摩川」も近い環境から、ファミリーに適した街ともいえそうです。
いずれにも共通するのは、世帯年収が高くないとこの地に住むのは難しそう、ということ。不動産価格が高めなのもそうですが、ピーコック、ザ・ガーデン、紀伊國屋など、近隣スーパーのラインナップを見ても物価はお高め。
ただそういった方々がお住まいだからこそ、街の秩序が保たれ、治安が良く、冒頭の “すずらんのような” 凛とした街になっているのではないかと思いました。
おまけ 〜わたしの取材メシ〜
1980年から九品仏川緑道沿いにお店を構えている老舗のパンケーキ専門店「花きゃべつ」。デザート系から食事系まで種類豊富で、季節ごとに訪れたくなる限定メニューも。
ほどよい弾力のある生地で、とっても美味しかったです。ご馳走様でした!
筆者がいただいたのは「ハムエッグ」。ほかの2種類は同行スタッフがいただいた「オムレツ」と「チョコバナナ」。3種類食べた訳ではないのでご安心を(笑)