【vol.11 世田谷代田】カオスの先端に触れる、穏やかな住宅街
皆さまこんにちは。東京の街を愛する宅地建物取引士、伊勢谷(いせたに)です。こちらの連載では東京の様々な街を “暮らす目線” と “不動産屋目線” でご紹介していきます。
「下北沢」のお隣り、環七周辺の住宅街
「世田谷代田」は世田谷区の北東に位置する小田急線の各駅停車駅。お隣は小田急線と京王井の頭線が交差する「下北沢」駅で、下北沢からだと「新宿」駅にも「渋谷」駅にも乗車時間10分ほどで到着可能です。
▲ 両隣の「下北沢」駅、「梅ヶ丘」駅まで直線距離にして約650m(徒歩9分)。真上の世田谷線「新代田」駅まで約500m(徒歩7分)と、コンパクトな街であることが分かります。
駅のすぐ西側を環状七号線が走っていることから騒がしい環境を想像される方もいらっしゃるかもしれませんが、実際には駅周辺のほとんどが「第一種低層住居専用地域」に指定されており、とても穏やかな住宅街が広がっています。
▲ 上・現在の駅舎は2017年に完成。2021年に東口改札が新設されました。駅前広場には地名の由来とも言われるダイダラボッチの大きな足跡が。/下・環七の上に架かっているのは「代田富士見橋」。文字通り、天気がいいと富士山を眺めることができるそう。駅は写真左手に。
線路跡地の、みんなでつくる新しい「まち」
2013年に「世田谷代田」「下北沢」「東北沢」の3駅を結んでいた小田急線の線路が地下化。それに伴い、約1.7kmに渡る線路跡地が「下北線路街」として開発され、2016年から順次様々な施設がオープンしてきました。
▲ イメージ図(小田急電鉄プレスリリースより引用)
開発コンセプトは『BE YOU. 下北らしく。ジブンらしく。』。自分らしく生きる人が多く、多様性に溢れた街で、新たにチャレンジする人を後押しする。“何かを変える” のではなく、開発を通じて “街を支援する” 。そんな支援型開発の形がとられました。
実際に対象エリアを歩いてみると、きちんと周辺住民への配慮がされた上で、新たな賑わいや下北沢らしいカルチャーが創出されているように感じます。
そんな再開発によって誕生したスポットや施設を少しご紹介しましょう。
1)由縁別邸 代田
駅東口の真隣に、箱根から天然温泉を運んでいる宿泊施設「由縁別邸 代田」があります。昔からそこにあったような日本家屋のような佇まいで、緑道を挟んだ反対側には長期滞在用のドミトリーやスパ施設もオープンしました。
オープンがコロナ禍と重なったこともあり、当時は約7割が世田谷区からの宿泊客(!)だったそうですが、取材当日は暖簾をくぐる外国人観光客の姿を数組お見かけしました。都心へのアクセスがいい温泉宿は非常に珍しいので、人気が出るのも納得です。
2)BONUS TRACK
駅前から続く線路跡地を歩いていくと辿り着くのが「BONUS TRACK」。以前施設の方にインタビューしたことがありますが、緑道を挟んですぐに住宅街が広がっていることもあり、オープン当時は『いかに街の外から人を呼び込めるか?』ではなく『いかに近隣の方に親しんでいただけるか』を考えながら運営していたと仰っていました。
緑道沿いは周辺住民の方々の散歩道となり、小さなお子さまからご年配の方々、犬の散歩中の方など様々な方が通っては『ここはどんな施設なの?』と興味を持ってくださったそう。
長屋風の各棟に飲食店や物販店が入り、2階に住みながら営業も可能という造り。真ん中には椅子やテーブルが並び、定期的にイベントが開催されています。取材日は提灯で彩られていました。
▲ イベント開催時の「BONUS TRACK」の様子。
3)世田谷代田 仁慈保幼園
「由縁別邸 代田」と「BONUS TRACK」の間にあるのがこちらの保幼園です。“個” 育てに力を入れるだけでなく、地域や保護者との関わりなどを大切にしているのだそう。活動内容を写真で拝見しましたが、子どもたちが園庭でのびのび泥んこ遊びをする様子など微笑ましいものばかり。近くに住んでいたら迷わず通わせたいと思う園です。
4)シモキタ雨庭広場〜シモキタのはら広場
「BONUS TRACK」の敷地を抜けると鎌倉通りを挟んでふたつの広場が下北沢駅まで連なっています。車道と歩道が分離されているので安全。写真左手に写っているのは、暮らしながら学べる「SHIMOKITA COLLAGE」。
5)イベント多発!
下北沢駅周辺では常に何かしらのイベントが開催されています。取材・執筆中に開催されていたのは街中にアートが展示される「下北沢ナイトアートムーン」(2024/9/13-9/29)。せっかくなので娘を連れて参加してきました。穏やかな街に身を置きつつ、こういったイベントにすぐ足を運べるのは「世田谷代田」に住む大きな特権と言っていいのではないでしょうか。
▲ 左上・「由縁別邸 代田」の塀に掲出されていたイベント告知の横断幕。/右上・Luke Jerram作「Museum of the Moon」/左下・Atelier Sisu作「Elysian Arcs」/右下・Amanda Parer作「Intrude」
再開発前から変わらない街の姿
冒頭でもお伝えした通り「世田谷代田」駅周辺はほとんどが第一種低層住居専用地域にしていされており、航空写真でぱっと見ても分かるくらい一戸建てが集まる住宅街です。駅の南側には「北沢川緑道」が走っており、緑が豊かなのも特徴のひとつです。
▲ 上・住宅街の様子。/下・赤堤〜池尻まで約4.3km続く「北沢川緑道」。
近隣の大きな公園といえば、梅ヶ丘駅近くにある「羽根木公園」。梅林が有名ですが、広い園内にはプレーパークや野球場、テニスコートもあり、子どもから大人まで楽しめる場所となっています。ちなみに公園の一角にあった世田谷区最古の「梅ヶ丘図書館」は現在建て替え工事の真っ最中。現地看板によると2025年10月末に完成予定とのことでした。
▲ 左・丘の上いっぱいに広がる見事な梅林。/右上・園内には茶室も。/右中央・NPO法人が運営するプレーパーク。/右下・テニスコートの向こうに野球場もあります。
定住者多数!売り出し自体希少
「世田谷代田」の過去3年間の成約情報を見てみると、これまで取材してきた街に比べて件数がとても少ないことが分かりました。周辺に駅が多数あることから “徒歩10分圏内” として集計しています。
▲ 東日本流通機構(REINS)に登録された、過去3年間(2021/9/1-2024/8/31)の成約事例を集計したもの(オーナーチェンジ物件を除く)。いずれも「世田谷代田」駅より徒歩10分圏内のみを集計しており、同アドレス内でもそれを超えるものや未登録物件はカウントしていないため、全成約を網羅できているものではないことをご了承いただいた上で、ご参考までにご覧ください。(土地 / 建物 / 専有面積45㎡以上、いずれも価格の制限なし)
詳細は以下のチャートをご覧ください。中古戸建ての平均広さは約100㎡、中古マンションは70㎡弱と、ファミリーに適したサイズの物件が多いことが分かります。特徴的なのは都心部だと最も流通している中古マンションの取引が少ないこと。これは先にもお伝えした「第一種低層住居専用地域」の影響で戸建て以外の建築が難しいためです。マンションの成約数が環七の西側に偏っている点も興味深いですね。
▲ 代田4丁目だけ中古マンションの平均価格や坪単価が低いことが分かりますが、これは築年数の古い借地権(=販売価格が低い)のマンションが多数取引されていたことが影響しています。
まとめ
取材と調査を元にまとめた「世田谷代田」のポイントは以下の3つ。
・有名駅の隣駅
・ジャパニーズカルチャーの先端に触れられる
・穏やかな住宅街で、ファミリーで暮らしやすい
まずなんと言っても「下北沢」の隣というのが最大のポイントだと思います。筆者はよく “有名駅の隣駅っていいよね” と話すのですが、これは大きな駅の利便性やコンテンツの充実を享受しつつ、そこから少し距離を置いて生活が送れるから。「世田谷代田」はまさにそんな環境だと思います。再開発によって街並みが美しく刷新されたところですので、ますます住み心地が向上しているはずです。
また改めて考えてみると、これだけジャパニーズカルチャーの色濃い街って都内でも早々無いと思うんです。劇場、ライブハウス、古着、カレー……様々が渦巻く坩堝の側に身を置くのってものすごく刺激的で楽しそうですし、『自分も他人も認め合う』、そんな風土の中で暮らすこと自体に価値があると感じます。
売り物がなかなか出ないのは難儀なポイントですが、平均平米数を見てもファミリーで暮らしやすそうなラインナップ。常に販売情報に目を光らせ、売り物が出たらすぐ内見するなど、スピーディーにアクションを起こすと良さそうです。
おまけ 〜わたしの取材メシ〜
残暑が厳しかった9月。取材終了とともに駆け込んだのは駅改札の横にある「STREAMER COFFEE COMPANY SETADAYADAITA」。ビッグサイズのアイスラテとツナメルト(グリルドサンドイッチ)をいただきました。少し涼んだ後、娘が最近ハマっているトトロのシュークリームを買おうと「白髭のシュークリーム工房」へ行くも、なんと売り切れ! 泣く泣くクッキーを買って帰りました。(それでも娘がよろこんでくれて良かった……。)
▲ 左下・「白髭のシュークリーム工房」ではトトロの形をしたシュークリームや焼き菓子を販売。さすが世界的アニメとあって、外国人観光客の方もたくさん来店していました。夕方には売り切れてしまうこともあるのでご注意を(涙)/右下・小トトロのクッキーに大興奮の娘(1歳)。