【vol.12 大井町】品川区の真ん中。再開発で変貌を遂げる働き者の街
皆さまこんにちは。東京の街を愛する宅地建物取引士、伊勢谷(いせたに)です。こちらの連載では東京の様々な街を “暮らす目線” と “不動産屋目線” でご紹介していきます。
品川区の中央に位置する街
JR京浜東北線、東急大井町線、東京臨海高速鉄道りんかい線が乗り入れる「大井町」駅。お隣りは新幹線も停まる東京のターミナル「品川」駅です。品川区のほぼ中央に位置していることから「品川区役所」「品川郵便局」など区を代表する施設が集まり、東には第一京浜と京急線が走っています。空港へのアクセスもいいことから、出張の多いビジネスマンに人気の高い駅でもあります。
ちょっとした情報をお届けすると、お隣り「品川」駅が実は港区にあるのは有名な話。またJR中央口がある地上2階からりんかい線の改札がある地下1階の間には長さ44mのエスカレーターがあり、なんと都内最長だそう。わたしが移動した際には地上に出るまで約6分間かかりました。順調にいけば「新宿」や「渋谷」駅まで乗車時間10分ほどで到着しますが、その他の移動時間も鑑みて検討するのがいいですね(JRの路線が複雑に絡み合う関係で遅延が起きやすく、この日は渋谷から乗車時間20分ほどかかりました)。
元々は工場が多い街だった
街の歴史について調べると、駅が開業したのは1914年のこと。駅の北西側には現在もJRの「東京総合車両センター」があり置かれており、1968年、その一角に区役所が誕生しました。現「阪急大井ガーデン」があった場所にはカネボウ大井工場があったり、現「東京品川病院」には東京電気の工場があったり、現在でもこの街で発展してきた「ニコン本社」や「三菱鉛筆本社」などが残っています。
▲ 左上・広大な「東京総合車両センター」を東側から見たところ。再開発の進捗がよく見えます。/右上・「阪急大井町ガーデン」。駅前には「アトレ大井町」「ヤマダデンキ LABI LIFE SELECT 品川大井町」「イトーヨーカドー大井町店」など大型商業施設が並んでいます。/左下・「ニコン本社」へと続く通称 “光学通り” は街灯下にロゴを掲出。/右下・「三菱鉛筆本社」はペン先を思わせる鋭角なファサード。
つまり、この地は元々そういった工場で働く方々が住まう街であり、生活を支える街でもあったということ。当時の面影は街を歩いていても感じることができるので、後ほどご紹介していきますね。
大規模な再開発が進行中26年開業予定の「OIMACHI TRACKS」
冒頭の写真でもご覧いただける通り、現在駅の北西側で大規模な再開発事業が行われているところ。こちらは大井町〜浜松町を『広域品川圏』と位置付けた再開発の一貫で、2024年10月8日に名称「OIMACHI TRACKS」が発表され、その全貌が明らかになってきました。
▲ 地区計画の概要(出典:品川区「広町地区のまちづくり」)
現在着手されているのは上の図でいうA地区。敷地面積は約2万9,400㎡です。シネコンを含むアウトモール型の商業施設、約5,000㎡規模のオフィス、防災拠点を兼ねた広場、賃貸レジデンスやホテルも開業する予定です。
▲ イメージ図(出典:JR東日本ニュース「大井町駅周辺広町地区開発(仮称)のまちづくり」)
なお、隣接するB地区では「品川区役所」の建て替えを控えており、2024年12月に都市計画が決定・告示される予定。駅近くの利便性や動線が順次変わっていきます。
▲ 現在建つ「品川区役所」。
昔の面影をいまも色濃く残すエリア
再開発検討地はC~G地区として駅の南側や東側にも及んでおり、中でもC地区として指定されている駅北東側の「東小路飲食店街」は飲み屋さんが軒を連ね、ディープでノスタルジックな雰囲気満点。昔ここでハシゴ酒したことを懐かしく思い出しながらふらりと歩いてみました。
▲ 「東小路飲食店街」には飲み屋さんや町中華、スナックが所狭しと並び迫力満点。すずらん通りにぶつかると千ベロの聖地そしても有名な「肉のまえかわ」(写真右下)があります。
C地区は2023年の段階で品川区が “地域の方々が意見交換や話し合いを行っていく段階” と回答しており、具体的な再開発案は出ていないようです。しばらくは新旧が並ぶ街並みとなりそうですね。
古くから高級住宅が建ち並んだ 「ゼームス坂」と「仙台坂」
大井町の居住エリアとして筆者の頭に真っ先に浮かぶのは、名前の付いたふたつの坂道。「ゼームス坂」は元々浅間坂と呼ばれる急な坂でしたが、坂下に住んでいた英国人J.M.ゼームスが私財を投じて緩やかに改修したことから彼の名が付いたとされています。
▲ 左上・標識の後ろに並ぶ看板建築。/右上・歴史あるヴィンテージマンションも複数建っています。こちらは全195戸の「三越ゼームス坂マンション」。/左下・坂の頂上付近に建つ、全164戸の「プラウド大井ゼームス坂」。/右下・坂の中腹で見つけた「品川銀座」の標識。「新馬場」駅南口前まで続いている模様。
「仙台坂」は坂の中腹から上にかけて仙台藩伊達陸奥守の下屋敷があったことや、坂上に仙台味噌の工場があったことに由来するといわれています。
▲ 第一京浜の「青物横丁」交差点から仙台坂を見たところ。/右上・坂の中腹にある「品川エトワール女子高等学校」。/左下・「仙台坂トンネル」の横はかつて「くらやみ坂」と呼ばれていました。/右下・現在も坂上にある「仙台味噌醸造所」。
大規模な築浅マンションも駅周辺で何棟か見かけました。特に全635戸の規模を誇る「シティタワー大井町」の存在感は圧倒的です。
▲ 左・2019年竣工「シティタワー大井町」/中央・2012年竣工、全132戸の「シティテラス大井仙台坂ヒルトップレジデンス」/右・2020年竣工、全139戸の「クレヴィアタワー大井町ザ・レジデンス」
子育て施設はひっそりと
当然街に公立校などはあるものの、保育園はマンションの1階部分に入居するものを複数見かけました。小さな児童公園もチラホラ。しかし夕方になると下校してきた子どもたちと何人もすれ違い、駅前には縁日やハロウィンイベントのため通行止めの掲示も。子どもたちは普段どんな場所で過ごしているのでしょうか?
▲ 左上・「シティタワー大井町」の1階に入る保育園。/右上・戸建て住宅が並ぶエリアにひっそりとあった「一本橋保育園・児童センター」。/左下・アスレチック遊具が充実した「大井中央公園」。/右下・区役所の前で見つけた子ども向けイベントの知らせ。
駅付近で最も大きい公園は区役所の向かいにある「しながわ中央公園」。雨が上がると噴水で遊ぶ子どもたちやジョギングする方々が続々と集まってきました。そのほか東側の京浜運河沿いにも運動公園や広場があるので、少し足を伸ばしてそういったところへ出かけているのかもしれません。
▲ 「しながわ中央公園」の様子。子どもが水遊びできる噴水や流れ、ロックガーデンがあります。多目的広場やテニスコートは有料。
ファミリータイプのマンション多数
「大井町」の過去3年間の成約情報を見てみると、土地が7件、中古戸建てが15件、中古マンションが203件と、圧倒的にマンションの取引が多いことが分かります。アドレスごとにマップにまとめてみました。
▲ 東日本流通機構(REINS)に登録された、過去3年間(2021/10/1-2024/9/30)の成約事例を集計したもの(オーナーチェンジ物件を除く)。いずれも「大井町」駅より徒歩10分圏内のみを集計しており、同アドレス内でもそれを超えるものや未登録物件はカウントしていないため、全成約を網羅できているものではないことをご了承いただいた上で、ご参考までにご覧ください。(土地 / 建物 / 専有面積45㎡以上、いずれも価格の制限なし)
詳しくは以下のチャートをご覧ください。マンションの取引件数が最も多く、坪単価も最高値の “大井1丁目” では2012年竣工の「ブリリア大井町ラヴィアンタワー」が13件、2020年竣工の「クレヴィアタワー大井町ザ・レジデンス」が12件、2019年竣工の「シティタワー大井町」が11件と特定のマンションに成約が集まっていました。平均平米数は70㎡弱と、ファミリータイプが多いことが分かります。
個人的に面白かったのは、マンション成約ゼロの “大井2丁目” エリアから見た “大井1丁目” の眺め。2丁目は見事に戸建てが並ぶ住宅街で、通りを一本挟んだところに「シティタワー大井町」が壁のようにどーんと建っています。用途地域がキッパリ分かれていることを地上から思い知ることができました。
▲ 第一種住居地域である “大井2丁目” から見た 商業地域・近隣商業地域の “大井1丁目” 。
まとめ
取材と調査を元にまとめた「大井町」のポイントは以下の3つ。
・出張の多い方にオススメ
・今後の発展に注目
・都会的子育て
まずなんと言っても羽田空港や新幹線へのアクセスのよさには目を見張るものがあります。街を歩いていると時折ゴォーという音がして、空を見ると大きな飛行機! 『品川広域圏』の再開発も東京の玄関口として整備がすすめられているだけあって、日本中、いや世界中へのアクセスが良好な街といえるでしょう。出張だけでなく、旅行好きな方にとっても堪らない環境ですね。
▲ 駅の上を通過する飛行機。空が広く見えるマンションでは “飛行機ビュー” が楽しめそう。ただし閑静な環境をお求めの方はご注意を。
また駅周辺で進む再開発も広域に渡っていることから、今後ますます住みやすさが向上すると思われます。区の施設が集中していることも人気の理由と言えますね。
子育て環境はというと、近隣に遊び場こそ少ないものの、品川区全体が子育て支援に力を入れていること、区立の小中学校で9年間の一貫教育を実施していることなどがメリットといえるでしょう。ただし現状エリアによっては飲み屋さんが多く、以前も路上の喧嘩に出くわしたり、取材日も大声をあげながら走るバイクを見かけたりと少し心配になる面もありました。住まいを選ぶ際はよく街を歩いて、治安の確認をされることをオススメします。
おまけ 〜わたしの取材メシ〜
以前別の媒体で取材させていただいた街の名物洋食店「ブルドッグ」が移転オープンしたというのをニュースで見かけ、足を運ぼうと思っていたのですが残念ながら定休日。駅前から続く大井銀座ショッピングロードにある「丸八とんかつ店」に伺いました。1955年創業の老舗で、何度もグルメサイト食べログで100名店に選ばれています。味のある店内の雰囲気、店員さんの心遣いなども含めて大満足のランチに。大井町でいつも立ち寄る「COFFEE&SWEETS AWAYA」さんでアイスココアをいただいて帰路に着いたのでした。
▲ 左上・アーケード沿いにある「丸八とんかつ店」。1階はカウンター席、2階にはお座敷もある模様。『これ、孫』と言いながら入ってきたご常連さんも。こういう “本物” のお店に娘を連れて行きたい。/右上・清く正しい銀皿のとんかつ定食。衣サクサク、お肉は柔らかジューシー。具材が大きな豚汁も絶品でした。/左下・店員さんが『クリームがたくさん乗ってるけど大丈夫ですか?』と聞いてくださった「AWAYA」さんのアイスココア。もちろん大丈夫です!/右下・2階席の窓から街を眺めながら、しばし休憩。