東京ライフスタイル探訪

【vol.2 湯島】歴史文化が息づく街は、築浅マンションの宝庫だった

皆さまこんにちは。東京の街を愛する宅地建物取引士、伊勢谷(いせたに)です。こちらの連載では東京の様々な街を “暮らす目線” と “不動産屋目線” でご紹介していきます。

文京区の最南東に位置  目を見張る交通アクセスの良さ

早速ですが、皆さま “文京区湯島” と聞いて、どんなイメージを抱くでしょうか? 『歴史や文化を感じる、日本の古き良き街並み』を想像される方も多いと思います。しかし実際は記事タイトルの通り、街をくまなく歩いてみると、寺院や学校が多いのは確かながら、それ以外は商業ビルや築浅マンションが肩を寄せ合っていることがよく分かりました。

駅ごとに記事を作成するとどの場所までカバーするか毎回迷うのですが、今回は “文京区湯島” というアドレスを軸としてご紹介していきたいと思います。

 

全部で19の町名に分かれている文京区ですが、“湯島” はその中でも最南東に位置します。隣り合っているのは千代田区と台東区。同じ町名でも、進むエリアによってカラーが異なるのがとてもユニークです。

左上・「湯島」駅6番出口前にて撮影。都道452号線沿いにビルやマンションが建ち並んでいます。/右上・都道17号線(中山道)から見た「湯島聖堂」の美しい銀杏の木々。/左下・湯島4丁目の「無縁坂」を下る途中、上野恩賜公園沿いのタワーマンションが視界に入ります。/右下・文京区と台東区の区界が位置する上野の歓楽街では、左右の街灯に「湯島白梅商店会」「池之端商店会」と別々の表示板が下がっていました。

 

「湯島」駅から徒歩15分圏内を調べてみると、その駅数の多さ、さらに路線の充実ぶりに驚きます。なんと15の駅があり、全部で21もの路線が利用できるのです。

これだけ交通アクセスがいいのは、文京区の中でも随一。利用できる路線は都内の主要駅へ直通しているのはもちろん、徒歩9分の上野駅からは新幹線にだって乗れてしまうのですから、日々の通勤通学だけでなく、休日に足を運ぶ街の選択肢もぐっと広がりそうです。

学問を育む街

文京区最南東の中でも、さらに最南東にあるのが「湯島聖堂」です。神田川に架かる聖橋を渡ったところには、文京区教育委員会が立てた『近代教育発祥の地』という看板もありました。

江戸時代、学問の府であった聖堂(孔子廟)の一部があった場所で、学問所はのちに東京大学へと発展。隣り合う街にも目を向けると、東京大学はもちろん、御茶ノ水方面には明治大学、中央大学、日本大学のキャンパスも。そのほか専門学校なども多く見かけました。

また「湯島聖堂」の対面には「東京医科歯科大学」があり、近隣には順天堂大学、日本薬科大学もあることから、通称  “メディカルタウン” と呼ばれる側面も。

左上・厳かな空気が漂う「湯島聖堂」。/右上・神田川の上に架かる聖橋から撮った「東京医科歯科大学」。/左下・湯島4丁目界隈にある「東京大学 龍岡門」。/右下・御茶ノ水エリアのシンボル的存在となっている「リバティータワー」には、明治大学のキャンパスも入っています。

街のイメージを醸成する神社仏閣、文化施設

上記 “学問発展の地” という背景もあって、駅近くにある「湯島天満宮(通称:湯島天神)」には学問の神様が祀られていると、現在でも多くの参拝客が訪れます。わたしも受験生の頃、お守りを買いに足を運びました(懐かしい……)。

授与所に学生の姿も見られた「湯島天神」。絵馬掛所にはご自身の合格祈願のほかに、身近な方の合格を祈る札も見かけて心温まります。冬には境内に白梅が咲き誇ることでも有名。

 

またアドレスとしては千代田区外神田となりますが、「神田明神」も街のイメージに寄与しています。2030年には創建1300年を迎え、江戸三大祭と称される神田祭でも有名です。
 

広大な敷地面積を誇る「神田明神」も、お参りする方々で長い列ができていました。

 

駅の北西には「旧岩崎邸庭園」があり、歴史的建造物を見学することができます。敷地内には「国立近現代建築資料館」もあり、筆者も以前そちらを目当てに足を運んだことがありました。
 

旧岩崎邸からは、上野恩賜公園沿いに建つタワーマンションを眺めることができました。こちらの建物は時が止まったままですが、窓に写る景色は時代とともに移ろっていくのだなと感慨深かったです。
 

坂道の街

文京区が公表している「地形・まちの成り立ち」という資料を見ると、湯島エリアは起伏に富んだ土地であることが分かります。同資料内には「名のある坂道」というマップもあり、数えると実に20が湯島エリアにかかっていることになります。

左・「文京区の地形図」/右・「名のある坂道」。高→低という表記になっています。(出典:地形・まちの成り立ち - 文京区)

左上・湯島天神の境内へ続く「天神石坂(通称:天神男坂)」。別のルートには(通称:女坂)も存在します。/右上・湯島2丁目と3丁目の間にある「実盛坂」。横に建つ築浅マンション「パークメゾン湯島」には、坂の上下を結ぶエレベーターがありました。/下・神田明神から「蔵前橋通り(通称:新妻恋坂)」へ下る階段。


特に坂道が目立つのは、上野方面を除いた湯島3丁目。駅がある都道452号線から西の清水坂にかけて、緩やかな上り坂になっています。
 

左上・三組坂(みくみざか)/右上・清水坂/左下・傘谷坂(からかさだにざか、かさだにざか)/右下・坂の途中には名前の由来を報せる看板が設置されていて、散策がてら見て回るのも楽しそう。こちらは中坂(仲坂、なかざか)のもの。
 

買い物事情

「湯島」駅界隈にもスーパーはいくつかありますが、食材を買うなら上野の「アメヤ横丁」周辺へ、家電を買うなら秋葉原へ、書店を目指すなら御茶ノ水へと、買い物環境も充実しています。

左上・駅前の通りにある「Hanamasa Plus+ 湯島店」。/右上・先ほどご紹介した実盛坂隣のマンションには「サミット 湯島天神南店」が入っていて便利。/下・上野方面へ足を伸ばすと「業務スーパー 上野広小路店」や「ドン・キホーテ 上野店」などがあります。

湯島は文京区の中でも不動産価格が高いエリア

こちらの表は2023年1〜10月までの文京区中古マンション成約事例(専有面積が50㎡〜80㎡台が対象/288件)を集計したものです。注)平均成約価格(坪単価)は専有面積・築年数・駅距離等、異なるため同条件の比較ではありません。

文京区全体の平均坪単価は約481.3万円で、湯島は4番目に高い結果となりました。詳しくは出典元の動画をご覧ください。

中古マンションの成約事例を分析

下は筆者が作成した、住所別の中古マンション成約マップ(過去3年間、専有面積40㎡以上の物件を集計)。価格・平米数・築年数はそれぞれ平均を算出しました。

東日本流通機構(REINS)に登録された、過去3年間(2021/12/1-2023/11/30)の中古マンション成約事例を集計したもの(オーナーチェンジ物件を除く)。未登録のものはカウントしていないため、全成約を網羅できているものではないことをご了承いただいた上で、ご参考までにご覧ください。

【湯島1丁目】

湯島1丁目は土地の大部分が「東京医科歯科大学」や「湯島聖堂」となっており、成約件数は5件と少なめ。住まいを探すこと自体が難しいエリアとなっています。

【湯島2丁目】

清水坂を登り切った先に位置し、湯島エリア唯一の小学校「湯島小学校」もこちらにあります。細かな路地が多く、土地区画も細かく分かれているように見受けられました。

左上・「湯島二丁目」交差点にて、黄色い帽子を被って帰宅する子どもたち。/右上・下校時には子どもたちの見守りとして地域の方々が旗を持ってパトロールする姿も。/下・「湯島幼稚園」は「文京区立湯島総合センター」と同じ建物内にあります。 “ゆしま” と名前は付いていますが、住所としては文京区本郷3丁目。傘谷坂(通称:サッカー通り)を挟んだ対面が湯島2丁目です。

 

全部で23あった成約のうち、ファミリーで暮らせそうな65㎡を超えているのはわずか6件のみで、全体の約1/4。取引されているマンションは偏りなくバラけており、驚くことにすべて2000年代以降に竣工した建物でした。

傘谷坂沿いに建つ「パークホームズ本郷三丁目」(左)。こちらは2023年4月に竣工したばかりで、中古市場に出てくるのはもう少し先となりそう。三組坂上の交差点近くには「シティハウス文京湯島」(中央)、「セジョリ御茶ノ水2」(右)。

【湯島3丁目】

マンションの数が最も多いと感じたのは、先ほど坂道が多いと記載した上野方面を除いた湯島3丁目です(都道452号線を越えた上野方面は歓楽街のため、住むには適さない印象でした)。2丁目に比べると広い区画の土地が多く、戸数の多いマンションも数多く見られました。

上・湯島中坂下交差点から湯島3丁目方面を見ると、細長いマンションがビルと肩を寄せ合い建っているのが良く分かります。/左下・三組坂下交差点。/右下・湯島中坂下交差点から中坂を見上げたところ。


成約件数こそ4つの丁の中で最も多いのですが、建物名を調べてみると、いくつかのマンションに成約が集中していることが分かりました。65㎡を超えている住戸は2丁目よりも更に減って、わずか3件のみ(全体の1/9)。また2016年以前に竣工したマンションの取引は4件のみで、残り23件は2017年以降に竣工したものでした。

左・中坂沿いで規模感、グレード感ともに目を引かれた「ディアナコート文京本郷台」。/中央・湯島天神程近くに建つ「イニシアイオ文京仲坂」。/右・全324戸というスケール感から分譲マンションかと思いきや、実は賃貸マンションだった「パークアクシス御茶ノ水ステージ」。

 

2丁目、3丁目周辺を歩いている途中、いくつか新築マンションの建設現場に遭遇したのでご紹介したいと思います。

湯島駅のほぼ真上、天神下交差点至近の敷地には、住友不動産による「シティハウス湯島ステーションコート」の工事現場が。上野恩賜公園まで徒歩2分という点も魅力です。全68戸で、第1期2次の募集では専有面積は約55㎡から70㎡、販売価格は1億1,300万円から1億6,800万円とのこと。横に建っているのは総戸数800戸の巨大マンション「湯島ハイタウン」。
 

左・湯島2丁目で建設中の野村不動産による「プラウド御茶ノ水」。地下1階付き地上13階建てで、現地看板によると2024年4月竣工予定。全住戸60㎡以上で、販売価格は公表されていたもので9,900万円台から25,200万円台。/右・傘谷坂(通称サッカー通り)では「(仮称)文京区本郷三丁目計画」なる建設現場を発見。三井不動産レジデンシャルが事業主で、日本サッカー協会ビルが地下3階付き地上23階建てのマンションに建て替えられます。現地看板によると、令和10年4月竣工予定とのこと。

【湯島4丁目】

わたしが最も魅力を感じたのは、湯島駅の北西側、春日通りを越えた先に位置する湯島4丁目です。「麟祥院」や「東京大学 龍岡門」「旧岩崎邸庭園」に囲まれており、住宅地は非常に静か。また「文京区教育センター」や「文京 湯島地域活動センター」「文京総合体育館」などもあり、区の施設が充実している点も魅力です。

左上・春日通沿いにある「湯島四丁目」バス停。/右上・「麟祥院(りんしょういん)」では月、水、金曜日の朝に坐禅体験ができるそう。/左下・「文京総合体育館」は「文京区 ゆしま地域活動センター」と同じ建物内にあr。/右下・住宅街の中にある「文京区教育センター」。

 

尚、成約価格マップを見ると4丁目は他と比べ販売価格が控えめかつ築年数が古いように感じますが、その要因となっているのは先ほどご紹介した「湯島ハイタウン」の取引が多い結果です。こちらのマンションは1969年竣工、土地権利が旧法地上権・借地権となっており、所有権の物件と比べ価格が低く抑えられているのが特徴です(個人的には大好きなマンションのひとつ)。
 

【湯島駅近隣のその他住所】

「湯島」駅の東・南・北のエリアについても成約事例を調べてみました。台東区上野1丁目、池之端1丁目はいずれもタワーマンションに成約が集中しています。上野恩賜公園目の前に建つ「ブリリアタワー上野池之端」は6件の取引があり、東向きの住戸は公園が一望できてさぞ気持ちいいだろうな……と想像してしまいました。

一方千代田区外神田2、3、6丁目は3つの丁を合わせても成約事例4件と、住まいを探すことの難しさを実感しました。

用途地域から読み解く  マンションが多い理由

文京区が公表している用途地域図を元に筆者が作成したマップ。詳細は「文京区 都市計画図検索システム」にてご確認ください。

 

文京区の用途地域図を確認すると、湯島1、3丁目は商業地域、湯島2丁目は近隣商業地域、湯島4丁目は第二種住居地域と第一種中高層住居専用地域で構成されており、なるほど2、3丁目はビルに囲まれて背の高いマンションが建つわけだ、と納得がいきます。一方魅力的に感じた4丁目は住居専用地域で商業が入り込めず、さらに文京区の「文化財庭園等景観形成特別地区(Ⅰ種)」に指定されていることから、落ち着いた住環境であることが分かりました。

土地や戸建ては購入困難

湯島アドレスで土地や戸建ての成約事例についても調べてみましたが、過去3年間で土地の成約は1件のみ(敷地面積約55㎡)、戸建ての成約は2件のみ(いずれも土地面積50㎡未満、建物面積100㎡未満)。街を歩いていてもほとんど戸建てを見かけませんでした。

まとめ

取材と調査を元にまとめた「湯島」のポイントは以下の3つ。

・築浅マンション思考の方にオススメ
・おひとり暮らしやカップル、ご夫婦、DINKS向き
・交通アクセス◎

歴史や文化を感じる土地柄である一方、駅周辺のほとんどが商業地域・近隣商業地域に指定されており、更に土地区画が細かく分かれていることから、縦に細長いマンションが多く建っていることが分かりました。またマップでご紹介した成約事例で見ると、2000年以降に竣工したマンションが全体の8割。ファミリータイプの間取りは少なく、成約物件の約7割が60㎡以下の専有面積でした。

よって、大手町をはじめ都心部でお仕事をされている、築浅思考の単身者や共働きカップル・ご夫婦に向いているのではないかと思います。これからお子さまを迎えたいと考えているご家族の最初の1軒目にも良さそうです。

筆者個人の感想としては、長く時を紡いできた土地である傍ら、住まいとなるとこんなに真新しいんだ……!とギャップを感じたのが面白かったです。
 

おまけ 〜わたしの取材メシ〜

長年入ってみたいと思っていた、神田明神参道にある「天野屋」さんで甘酒とくず餅のセットをいただいてきました。趣ある店内でいただく甘味はまた別格。店員さんの接客も丁寧で、取材の緊張がほっと和らいだのでした。

上・神田明神の大鳥居横に店を構えて177年。江戸時代から続く甘酒屋さんです。/左下・店員さんが「甘酒は甘さ控えめなので、ぜひくず餅を召し上がる前に一口飲んでみてください」とご説明下さいました。/右下・お庭に咲く白椿がきれいで、店内のぼんやりしたランプの光も相まって、まるでタイムスリップしたような気持ちに。皆さまもぜひ訪れてみてください!

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