東京ライフスタイル探訪
NEW

【vol.19 洗足・北千束・洗足池】3つの “せんぞく” は水が潤う歴史ある住宅街

皆さまこんにちは。東京の街を愛する宅地建物取引士、伊勢谷(いせたに)です。こちらの連載では東京の様々な街を “暮らす目線” と “不動産屋目線” でご紹介していきます。

今回訪れたのは “せんぞく” と付く3つの街「洗足」「北千束」「洗足池」。南北に連なる3つの駅は、同じ読み方でありながらふたつの漢字表記に分かれています。その歴史背景からそれぞれの街の特徴、不動産相場の比較など、多角的に分析してみたいと思います。

地名「千束」と「大池」の関係

「洗足」駅は東急目黒線、「北千束」駅は東急大井町線、「洗足池」駅は東急池上線と、近距離にありながらそれぞれ路線が異なり、目黒区・品川区・大田区が複雑に入り組むエリアです。
 

▲ 環七や中原街道が走り車移動に便利な一方、少し内側に入ると閑静な住宅街が広がっているのが特徴。

平安時代からこの辺りは『千束』という地名でしたが、日蓮が大池(洗足池)で足を洗ったという言い伝えから、地名の一部が『洗足』になったという説があります。

駅の歴史を調べると、まず最初に誕生したのは「洗足」。渋沢栄一が発起人の田園都市株式会社が最初の開発地としてここ「洗足」と「田園調布」を買収し『洗足田園都市』として分譲。その際に電鉄工事を行い、目黒蒲田電鉄に引き継がれた際に「洗足」駅が誕生。『洗足田園都市』とは “理想的な住宅都市(=田園都市)” を目的としたもので、一体は高級住宅地として整備されました。

それぞれの駅に関するTipsは以下の通り。
 

「洗足」駅周辺から街歩きをスタート

「洗足」駅周辺から街歩きをスタート

▲ 上・駅前の様子。/下・駅前の通称 “いちょう通り” 周辺は「洗足商店街」になっています。

「宮野古民家自然園」を訪れたところ、管理員の方が親切にいろいろご案内してくださいました。平成7年に目黒区指定史跡として指定されているこちらは、隣接するゴルフ打ちっぱなし場を含む広大な敷地を有しており、なんと主屋は築200年超え(こちらは平成8年に目黒区指定有形文化財に指定されています)。広い園内には立派な庭園だけでなく、この地で使われてきた農具や生活用品の展示などもあり、周辺の小学校が見学に訪れることもあるといいます。
 

▲ 左上・パンフレット。/右上・庭園入り口。/左下・主屋の室内から玄関を見たところ。/右下・展示品の中には「空襲警報発令中」の札も。

展示物の中にあった、昭和39年以前に撮影された目黒蒲田線「洗足」駅の写真。環七が開通した際、地下駅になったのだそう。

▲ 駅舎の形状はぜひこのあと登場する「北千束」駅と見比べてみてください。

また興味深かったのは昭和10年発行の「大東京案内地図」。当時は35区あり、この辺りを確認すると目黒区・品川区は存在するものの大田区という表記はなく、“荏原区・大森区・蒲田区” となっています。
 

▲ 地図自体は東京日日新聞の付録で非売品なのだとか。

インプットが終わったところで街歩きを再開。『洗足田園都市』を分譲する際この地は富士を見晴らす眺めのよい場所だったそうですが、建ぺい率を低く抑え、塀などは美観を保つものであることなど細かな条例が決められていたのだそう。いま歩いてもその名残を感じることができます。

まず第一に高台であること。ここから洗足池に向かって土地が傾斜していることがよく分かります。また大通り沿い以外は見事に戸建て住宅が並び、各家庭の植栽が路地を彩っていました。調べると品川区側を除き、目黒区・大田区側はほとんどが第一種低層住居専用地域に指定されています。

▲ “洗足いちょう通り” から続く「山屋坂」。坂の名前は街の発展に大きく寄与した山屋他人氏に由来しているのだとか。/下・整然と戸建て住宅が並ぶ通りも緑が多く、歩いていて気持ちがよかったです。

戸建て住宅が多く閑静なことからファミリー向きな印象がありますが、実は子どもの遊び場自体は少なめ。駅周辺に公園はほとんど見当たらず、線路の上に掛かる「洗足弁天橋」では保育園の園児たちやベビーカー連れのママさんの姿を見かけました。ここで電車を眺めることや、「西小山」駅前まで続く緑道がお散歩コースとなっているようです。

▲ 左・直線上に「西小山」の駅ビルが見えています。/右・住宅街の中にある「目黒区立洗足図書館」。
 

ひっそりとした「北千束」駅へ

続いて環七を渡り「北千束」駅を目指します。

▲ 環七沿いにはビルやマンションが並びます。

驚いたのは「北千束」駅の可愛らしさ。先ほど展示物の中に見つけた昭和39年以前の「洗足」駅舎と屋根や柱の形状が酷似しています。1日の乗降者数は世田谷線を除く東急電鉄の中で最少で、駅の横にコンビニが1軒あり、スーパーも少し離れたところに「まいばすけっと」が1軒あるのみ。かなりひっそりとした印象です。
 

▲ 『ガード下2.6M』の文字がインパクト大。改札側は高架になっていますが、駅の東側には踏切があります。
 

▲ 駅の南西側に隣接する「大田区立赤松小学校」は区の出張所やシニアステーションを含む複合施設。取材時は建て替え工事の真っ最中でした。
 

▲ なだらかな坂道を下って「洗足池公園」を目指します。

水の潤いを感じる「洗足池公園」へ

いよいよ約7万㎡もの広大な敷地を誇る「洗足池公園」に到着です。「洗足池」駅からは徒歩1分、「北千束」駅からは徒歩6分、「洗足」駅からは徒歩12分と、このエリアにお住まいの方々にとって大切な憩いの場となっています。

▲ 池の広さは約4万㎡。実に公園敷地の内4/7もの面積を有しています。

平日のお昼過ぎ、池のまわりのベンチは空きを見つけるのが難しいほど。園内は20分ほどで1周でき、お散歩を楽しむ方、デッサンする方、ボート遊びを楽しむ方など、皆さま思い思いの時間を過ごしていました。
 

▲ 上・池の周りは樹木が生い茂り、木陰が心地いい。/下・遊具が充実した「さくら広場」では元気に遊ぶ子どもたちの姿。網を持参して水生生物を観察する親子連れも見かけました。

池の真ん中には「厳島神社」、畔には「千束八幡神社」があり、取材日はその週末に開催予定の『春宵の響』特設ステージを設営しているところに遭遇。3連の太鼓橋「池月橋」も風情たっぷりです。

▲ 笛、謠、尺八、お囃子の響きが楽しめる『春宵の響』……聴きたかった!

休憩所の屋上はテラスとして開放され、広い池や園内を一望できます。風を感じながらオープンテラスでぼーっとするのもまた素敵。ボートにはこちらから乗ることができますよ。

▲ 上・展望テラスからパシャリ。/下・休憩所内の様子。

また公園の周辺には図書館や児童館など、ファミリーにうれしい施設が集まっています。放課後自転車に乗ってやってくる親子をたくさん見かけました。

▲ 左上・「洗足池図書館」。虫取り網を持って走る男の子の姿に癒されました。/左下・お庭も用意されている「洗足池児童館」。/右・池上本門寺へ向かう途中洗足池近辺で休息をとり、その景観が気に入ったことから別荘を建てたとされる勝海舟。公園沿いにはレトロモダンな「勝海舟記念館」が建っています。

レトロな商店街もある「洗足池」駅に到着

公園から環七を渡るとすぐに「洗足池」駅に到着。駅横の「洗足池商店街」にはスーパー、ドラッグストア、お魚屋さん、ベーカリー、パティスリーなど様々なお店がぎゅっと集まっていて、どこかノスタルジックな雰囲気です。

▲ 上・三角屋根が可愛い駅舎は1934年築。/左下・環七沿いには立派なマンションも多数建っています。/右下・「魚忠」さんの前には看板犬のトイプードルが♡
 

高級住宅街の名残で戸建て多し 3つの駅周辺相場は?

3つの駅の過去3年間不動産成約情報について調べてみました。元々このエリアは近距離に複数駅が集まっており『駅徒歩10分以内』で検索してもマップ上の円が見事に被る結果に。
 

▲ 東日本流通機構(REINS)に登録された、過去3年間(2022/5/1-2025/4/30)の成約事例を集計したもの(オーナーチェンジ物件を除く)。いずれも3つの駅より徒歩10分圏内のみを集計しており、同アドレス内でもそれを超えるものや未登録物件はカウントしていないため、全成約を網羅できているものではないことをご了承いただいた上で、ご参考までにご覧ください。(土地 / 建物 / 専有面積45㎡以上、いずれも価格の制限なし)

そんな訳で成約物件自体も重複しているのですが、参考までに3駅の比較表をご覧ください。
 

予想通り、他の都心の街と比べ土地・中古戸建ての割合は高めで、さすが高級住宅街として分譲されただけあって面積が広いのも特徴です。坪単価は「洗足」駅が最も高く、「洗足池」駅が最も低いという結果に(マンションのみ例外)。

まとめ

取材と調査を元にまとめた “3つのせんぞく” の特徴は以下の3つ。

・面積の広い戸建てを探しやすい
・大通り沿い以外は閑静な住宅街
・水辺の暮らしに憧れる方にオススメ

3つの駅とも目立った商業施設はなく、ゆったりと過ごせそうなベッドタウンという印象。閑静な住宅街の中ではご近所の方同士立ち話や挨拶をされている姿を度々見かけ、現代の都心では珍しい “ご近所付き合い” が健在なんだなと感動しました。それが叶うのも、ゆったりとした物件に暮らすことで育まれた “心のゆとり” の賜物なのかもしれません。

今回初めて「洗足池公園」を散策しましたが、その気持ちよさの虜になってしまいました。適度に賑わいがありつつも混み合っている印象はなく、自分のペースで休息できるところが魅力です。

3つの駅周辺は1日で見て回れる距離なので、ぜひ休日に公園を訪れがてら街歩きも楽しんでみてくださいね。
 

おまけ 〜わたしの取材メシ〜

今回もランチタイムを見事に逃してしまい、洗足池商店街を歩いていると「Patisserie AKANE」さんの前で “スワンシュー” の写真を発見! スワンシューに目がない筆者、すぐさま地下の店舗へお邪魔し、1羽をテイクアウト。洗足池公園休憩所のテラスで池を眺めながらいただいたのでした。
 

▲ キラキラと輝く水面に、芸術品のようなスワンシュー。街を訪れたときのお土産にぜひ!

TOP ブログ一覧 ブログ詳細