【vol.23 白金台】文化が薫り、自然豊かでアカデミックな街

皆さまこんにちは。東京の街を愛する宅地建物取引士、伊勢谷(いせたに)です。こちらの連載では東京の様々な街を “暮らす目線” と “不動産屋目線” でご紹介していきます。

今回訪れたのは「白金台」。90年代に女性ファッション誌「VERY」が “シロガネーゼ” というワードを打ち出し、かつて一世風靡した煌びやかな高級住宅街のイメージが浮かびます。約30年の時を経たいま、街はどのような姿をしているのでしょうか?
港区の最西端 高台に位置し歴史ある街
「白金台」駅の周辺は港区に属しますが、北西側は渋谷区、南西側は品川区と接しています。古くから大名屋敷が並ぶ土地柄でしたが、駅の歴史は意外と浅く、開業は2000年のこと。東京メトロ南北線と都営地下鉄三田線が乗り入れ、お隣りは両線の始発駅となる「目黒」。駅前を目黒通りが走り、有名な通称 “プラチナ通り” は外苑西通りの終着点です。街の名称に “台” と付く通り、一本裏に入ると風情ある坂道が多いのも特徴。

▲ 「目黒」駅、「白金高輪」駅、「高輪台」駅と近接しているため、今回は駅から半径500m圏内をメインに取材します。
なお、東京メトロは南北線の延伸を「品川〜白金高輪」駅間で計画していますが、いまのところ「白金台」は通過駅となる予定です。
文化施設、ラグジュアリーホテル、迎賓館・・・ 名スポットが目白押し
事前にマップ上で歩くルートを探っていると、驚いたのは “目玉” と呼べるスポットが狭域にぎゅっと集まっていたこと。いずれも敷地面積が広く、風格漂うものばかり。少しずつかいつまんでご紹介します。
◆ ゆかしの杜
駅の2番出口を出ると、すぐに姿を現すのが複合施設「ゆかしの杜」。これからご紹介する「港区立歴史郷土館」を始め、「子育てひろば あっぴぃ白金台」「みなと保育サポート白金台」「白金台学童クラブ(ゆかしの杜学童クラブ)」などを内包し、子育て世帯にとって心強い存在です。

▲ すぐお隣には「東京大学医科学研究所附属病院」があり、街の顔を形成しています。
◆ 港区立歴史郷土館
こちらは病院と対になって1938年に建てられた旧公衆衛生院で、スクラッチタイルで覆われたゴシック建築が特徴。現在は自然・歴史・文化を通して港区を知り、探求し、交流するための複合施設として無料で開放されています(一部展示や施設利用は有料)。「さわれる展示室」、図書室、カフェも入っており、館内ではお子さまからご年配の方まで幅広い年代を見かけました。

▲ 上・前に立つだけで建物の持つパワーに圧倒されます。/左下・円形吹き抜けの中央ホール。/右下・340席ある旧講堂。
◆ 国立科学博物館附属 自然教育園
江戸時代には増上寺の管理下→高松藩の下屋敷→明治時代には火薬庫→軍の管理下→宮内省所管(白金御料地)→文部省所管→『天然記念物及び史跡』に指定され、1962年に現在の「附属自然教育園」となりました。約20ヘクタールの園内では四季にわたって様々な草花や昆虫が観察でき、入園者を対象に日曜観察会や自然史セミナーを行っています。

▲ 大学生以上は320円の入園料がかかりますが、高校生以下は無料。ご家族でゆっくりと訪れたいスポットです。
◆ 東京都庭園美術館
本館は1933年に皇族朝香宮家の自邸として建てられ、1983年に美術館として開館。2015年には国の重要文化財に指定されました。フランスのアール・デコ様式を用いた美しい建築の中で、期間ごとに様々な展覧会が催されています。

▲ 上・取材時はちょうど次なる展覧会の準備中だったため、庭園のみ開館していました。建物前に広がるのは「芝庭」。/左下・ベンチやパラソルが置かれた「西洋庭園」。/右下・池を囲むように配された起伏ある「日本庭園」。
◆ 八芳園とシェラトン都ホテル東京
400年前から受け継がれてきた日本庭園を活かし、80年前に料亭が前身となってつくられた「八芳園」。『日本を、美しく』というパーパスを掲げ、日本の美意識が凝縮された時間を届けています。一方「シェラトン都ホテル東京」は1979年に創業。こちらも緑豊かな日本庭園が自慢です。同ホテルは近鉄ホールディングスが2025年4月に『将来的な高度活用に向けて検討を始める』と発表したばかりで、今後の動向が注目されます。

▲ 隣り合う敷地で異なる趣を放つ「八芳園(上)」と「シェラトン都ホテル東京(下)」。
◆ 大邸宅と迎賓館
このエリアで最も有名な大邸宅といえば「旧服部金太郎邸(通称:服部ハウス)」でしょう。2023年には大京が土地建物を取得したとニュースになりましたが、周辺を歩いてみると特に目立った動きはないようです。歴史的建造物を残してほしいと祈るばかりですね。隣接する敷地の一角は三菱商事のゲストハウスとなっていました。

▲ 左・通称 “服部ハウス” /右・「THE SHIROKANE GUESTHOUSE」
名門校やインターナショナルスクールが多く アカデミックな空気が漂う
「聖心女子学院」「明治学院大学」などミッションスクールが集まっているのも街の特徴。歩いていると制服姿の女学生や通学帽をかぶった幼稚園児など、きちっとした身なりのお子さまを多く見かけました。

▲ 「聖心女子学院」の正門へと続く道。凛とした空気が漂っています。
また明らかに数が多いと感じたのがインターナショナルスクール。これも各国の大使館やグローバル企業が集まる港区ならではかもしれません。

▲ 左上・「Laurus International School of Science in Tokyo」/右上・「東京インターナショナルプリスクール白金台キャンパス」/左下・「evoke communication academy」/右下・「Hayama International School Shirokane Branch」
さらに「港区立白金小学校」は “東京3大名門公立小学校” に数えられることが多く、街全体がアカデミックな雰囲気に包まれています。教育熱心なご家庭は自然と「白金台」に興味が引かれるのではないかと感じました。

▲ 八芳園がある桑原坂を下ったところにある「港区立白金小学校」。
大人が愉しむ 洗練されたショッピングタウン
街を象徴するスポットとして外せないのが通称 “プラチナ通り” です。長さ1kmほど続く銀杏並木沿いにセンスの良いショップが並び、木陰でゆったりとお買い物を楽しむことができます。レストランやカフェはもちろん、チョコレート専門店やアパレルセレクトショップなど、業態も多種多様。

▲ 目黒通りから見た “プラチナ通り”。ゴルフ用品を扱うお店が多数あり、それもまた住まわれている方々の特徴を現しているように感じました。

▲ 左上・ライフスタイルからファッション、ボタニカル、フードまでを提案する複合型ショップ「BIOTOPE(ビオトープ)」。/右上・BIOTOPEのお向かい、マンションの1階に入るのが「雨晴(あまはれ)」。日本全国から選りすぐった器が並びます。/左下・格子の外観が目を惹く「THE Tender HOUSE」ではお昼からシャンパン片手にお話に花を咲かせる奥さま方を見かけました。/右下・木造古民家の蕎麦店「利庵(としあん)」。だし巻き卵とわらび餅も名物。
また場所柄 “ペット連れOK” な飲食店もちらほらあり、街中にはトリミングサロンやペットグッズのお店も充実していました。

▲ シェラトン都ホテル東京1階にある「Cafe California」。アプローチにはDOG BARも設けられています。
きちんと揃った生活インフラ施設
ここまで読むとハイソなイメージが定着してしまいそうですが、駅前にスーパーやファミリーレストランなどが揃っているのもまた魅力。他の街までわざわざ買い出しに行かずとも「白金台」で完結する点も人気の理由でしょう。

▲ 上・日本で唯一 “プラチナ” を冠した「プラチナ ドン・キホーテ 白金台店」。品揃えは他店と変わらない印象でしたが、館内に精肉店が入っていたのには驚き! 並びにドラッグストアや100円ショップも。/左下・スーパー「いなげや白金台店」。/右下・ファミリーレストラン「ジョナサン」「バーミヤン」と同じ建物に「マルエツプチ 白金台店」も入っています。
また「東京大学医科学研究所附属病院」「北里大学 北里研究所病院」「NTT東日本関東病院」など総合病院が複数ある点も生活する上で大きな安心材料。子どもが遊べる公園も街中に点在しています。

▲ 左・「NTT東日本関東病院」/右・附属自然教育園の隣りにある「白金台どんぐり児童遊園」。
マンションの取引が圧倒的多数
大名屋敷があった名残から現在も豪邸が建ち並ぶイメージを抱く「白金台」ですが、過去3年間の不動産成約数を調べると、圧倒的にマンションの取引が多いことが分かりました。

▲ 東日本流通機構(REINS)に登録された、過去3年間(2022/9/1-2025/8/31)の成約事例を集計したもの(オーナーチェンジ物件を除く)。いずれも「白金台」駅より徒歩10分圏内のみを集計しており、同アドレス内でもそれを超えるものや未登録物件はカウントしていないため、全成約を網羅できているものではないことをご了承いただいた上で、ご参考までにご覧ください。(土地 / 建物 / 専有面積45㎡以上、いずれも価格の制限なし)
対象エリアの用途地域を調べると、最も面積が広いのは「第一種中高層住居専用地域」、次いで「第一種住居地域」「第二種住居地域」、大通り沿いは「商業地域」に指定されています。全体的にマンションが建てやすい条件下にあり、近年はタワーマンションも建設されています。表通りは築年数の浅いマンションがほとんどですが、裏に入ると貫禄漂うヴィンテージマンションも多数あり、平均平米数が広めなのも特徴です。

▲ アドレス毎に細かく集計したチャート。
坪単価の高さは都内でもトップクラス。中古マンションの中でも一際坪単価が高く平均築年数が浅い「白金6丁目」は、全22件の取引のうち実に19件が2015年築の「グランドメゾン白金の杜 ザ・タワー」が占めています。

▲ 上・高層マンションが並ぶ目黒通り沿い。/左下・プラチナ通り越しに顔を覗かせている背の高いマンションが「グランドメゾン白金の杜ザ・タワー」。/右下・低層住宅街の間から見えていたのは2018年築「ザ・パークハウス白金二丁目タワー」。

▲ 上・一見美術館のような佇まいの1991年築「白金ハウス」。/左下・聖心女学院正門のアプローチ沿いに建つ1969年築「白金マンション」。/右下・静かな細道の先にある1978年築「白金台ローヤルコーポ」。

▲ ほとんど売り物が出ない戸建てが並ぶ住宅街。緑が多く静かな環境。
まとめ
取材と調査を元にまとめた「白金台」の特徴は以下の3つ。
・教育熱心なファミリー層にオススメ
・街の規模に対して “目玉” となる施設が多い
・今後の開発に注目
今回特に印象に残ったのは教育機関の充実ぶり。学校が多いことから街全体の治安が良く、都心でありながら自然と触れ合える環境も魅力的に感じました。いまのところ「白金台」は通過駅となる予定ですが、南北線の伸延が完了すれば “日本の玄関口” として再整備が進む「品川」や「高輪ゲートウェイ」との距離もますます近づくため、インターナショナルな雰囲気にも拍車がかかりそうです。
おまけ 〜わたしの取材メシ〜
9月といえど猛暑日に当たってしまい、取材の中盤で早くも息切れ。「シェラトン都ホテル東京」のロビーラウンジ「BAMBOO」で、美しいプリンアラモードをいただきました。ゆったりソファに腰掛け日本庭園を眺め、ラウンジ内のせせらぎや人々が談笑する声をBGMに舌鼓を打つ時間はまさに格別。贅沢なひと時を過ごさせていただきました。
