【vol.26 北品川】都心で感じるノスタルジー、旧東海道の面影を残す街
皆さまこんにちは。東京の街を愛する宅地建物取引士、伊勢谷(いせたに)です。こちらの連載では東京の様々な街を “暮らす目線” と “不動産屋目線” でご紹介していきます。
今回訪れたのは品川のお隣り「北品川」。日本橋から京都の三条大橋までをつないだ東海道五十三次・第一宿として知られる『品川宿』があった場所で、個人商店が軒を連ねる商店街や、屋形船・釣船の発着場がある『品川浦舟だまり』など、かつての江戸の風景を色濃く残す街です。ビジネス街や高級邸宅街に囲まれつつ、まさにここだけ異色の存在。街を歩きながらじっくりとご紹介していきます。
「品川」から1駅の利便性
「北品川」は東京の大ターミナル「品川」駅から京浜急行本線(以下京急本線)で1駅、歩いてもわずか13分ほどの場所に位置しています。JR線や新幹線への乗り換えはもちろん、羽田空港にも1本でアクセス可能。駅の西側には第一京浜、南側には山手通りが走っており、車移動にも便利です。
▲ 京急本線は「泉岳寺」〜「新馬場」駅間の連続立体交差事業を実施中。3箇所の踏切が除去され、交通渋滞解消や分離されていた地域の一体化が期待されます。
「品川」駅前からは「品川インターシティ」の広大な敷地が広がり、2階のスカイウェイを歩けば雨に濡れずに「北品川」方面までアクセスが可能です。住むエリアによっては京急本線には乗らず、「品川」を最寄り駅感覚で使えるところもありそうですね。
▲ 上・1998年開業の「品川インターシティ」。中央には約2haもの歩行者大空間「品川セントラルガーデン」が整備されています。/左下・3棟のオフィス棟、商業店舗棟、ホール棟の計5棟が連なる大型複合施設。2026年3月には商業棟にフードホール「SHINATERRACE KITCHEN」が誕生予定です。/右下・後に登場する屋形船「船清」さんのパンフレットにもスカイウェイを利用したアクセス方法が明記されていました。
城南五山のひとつ 「八ツ山」の名が残る場所
以前の城南五山の取材記事でもお伝えした通り「八ツ山」というアドレスは存在しないものの、現在でも橋や交差点、通りの名称として残されています。第一京浜を渡った西側は「御殿山」エリアで、かつて近隣は大名屋敷や邸宅が並ぶエリアでもあったことが伺えます。
▲ 上・「八ツ山橋」横の陸橋を走り抜ける京急本線。/左下・八ツ山橋交差点からは「御殿山トラストタワー」や「開東閣」が間近に見えます。/右下・「八ツ山アンダーパス」。
東海道五十三次『品川宿』の名残
この街でまず語るべきは、旧東海道『品川宿』の名残を感じさせる「北品川本通り商店会」の存在。江戸時代の『品川宿』は現在の「北品川」〜「青物横丁」駅まで続いた全長約2kmの宿場町で、目黒川を境に北品川宿・南品川宿と分かれていました。「品川」駅の “南” に位置しているのに “北” 品川と名前が付いているのは、「品川」駅誕生よりずっと前からこちらの地域が栄えていたからです。
▲ 1833年頃、歌川広重作「品川 日之出」。品川宿の入り口より湊方面を望む。右手に描かれているのが「八ツ山」なのだとか。
現地で感じるのは “THE・ノスタルジー”。チェーン店はほぼ見かけず、個人商店が軒を連ね、看板建築や木造店舗など歴史ある建物も現存しています。『品川駅徒歩圏内にこんな場所が!?』と、いまでも初めて訪れたときの衝撃が忘れられません。浅草方面とはまた違った江戸情緒溢れる街並みは、現在街歩きスポットとしても人気を集めています。
▲ 上・旧東海道にあたる「北品川本通り商店会」。緩やかにカーブを描いているところや道幅はほぼ当時のままだそう。電線が地中化され見通しがいいですね。/左下・街灯側面にも『東海道品川宿』の文字。/右下・路地に入ると横丁の説明看板が立てられ、読んで歩くのも勉強になります。
街の雰囲気をお伝えしたいので、素敵な建物たちを駆け足でご紹介していきましょう。
▲ 銅板を使用した看板建築。金物店や薬局など。
▲ 左上から履き物屋さんに呉服屋さん、駄菓子屋さんに畳屋さん。木造建築が趣深い履き物屋さんはなんと慶応元年創業だそう。今度一足あつらえに伺いたい! 駄菓子屋さんには次々親子連れが入っていきましたよ。
▲ 左上から “野菜ソムリエがいる” 八百屋さん、鶏肉卸売店、生花店、酒場。スーパーに頼らずとも個人商店を巡って買い物をする、そんな昔ながらの暮らしが送れそうです。(もちろんスーパーもありますよ!)
老舗が残る一方、若い世代が始めた新しい業態も。いずれもこの街の歴史を未来へ継承しようと一念発起したことが伝わってきます。
▲ 左上・「KAIDO books&coffee」は旅をテーマにしたブックカフェ。/右上・「ゲストハウス品川宿」。/下・こちらは旧東海道から少し外れますが、5棟の木造建築群をリノベーションした「SHINAGAWA1930」。子連れコワーキングスペース、酒屋、カフェなどが入っています。
商店街から路地を覗くと、これまたノスタルジックな横丁が次々出現します。住宅街の中には井戸も現存し、タイムスリップしたような感覚を味わえますよ。
▲ 右の写真、手前に写っているのが現役で活躍する井戸の手押しポンプ。
また第一京浜沿いにある「品川神社」は1187年に源頼朝によって創建され、江戸時代には徳川家康が関ヶ原の戦い先勝祈願に訪れたという歴史ある場所。この辺りは寺院が多く、1932年に品川が大東京に編入されたことを記念して『東海道七福神』初詣を定め、元旦から成人の日まで多くの参拝人で賑わいます。
▲ 左&右上・大黒天を祀る「品川神社」。境内には宝物殿や富士塚があります。取材時は遠足で訪れた園児たちの姿が。/右下・寿老人を祀る「一心寺」。ご本尊は成田山の分身である不動明王。
屋形船・釣船の発着場 『品川浦舟だまり』
八ツ山通り沿いを歩いていると、運河沿いに船宿が集まる一帯があります。ここはかつて『御菜肴(おさいさかな)八ヶ浦』と呼ばれ、獲れた魚を江戸城へ納める漁村のひとつに決められていました。海苔の養殖が有名でしたが、1962年に漁場権を東京都に譲渡してから屋形船や釣船が集まるように。現在運河沿いにはマンションが多く建っており、窓から船宿とビル群が並ぶ独特な風景を楽しめる住戸も多そうです。
▲ 上・『品川浦舟だまり』。運河と並走しているのが八ツ山通り。/下・大正末期に建設されたという石造りの「北品川橋」。
▲ 屋形船を運行する「船清」。待合デッキから望む景色も風情たっぷり。
なお『品川浦舟だまり』から東を見ると、もうそこは「天王洲アイル」エリア。高層ビルが多くクールな印象漂う街から運河を1本隔てるだけで、こんなにも懐かしい街並みが残っていることに驚きです。
▲ 天王洲橋越しに「T.Y.HARBOR」や寺田倉庫、オフィスビル群を望む。
充実した子育て環境
2011年に開校した「品川学園」は、品川区内で5番目となる小中一貫の公立校。幼保一体施設「北品川すこやか園」も併設しています。最寄りは「新馬場」駅ですが、長くお子さまを通わせられる点が魅力的ですね。
▲ 線路と山手通りに挟まれた約2万㎡もの広大な敷地を有する「品川学園」。
そのほか「天王洲アイル」方面で暮らす子どもたちも通学する「台場小学校」、駅の斜向かいにある私立「品川女子学院中高等学校」、旧東海道沿いの「北品川保育園」(公園と児童館を併設)、運河沿いの「八ツ山保育園」などがあり、教育施設が非常に充実している印象です。
▲ 左上・「品川区立 台場小学校」/右上・「品川女子学院中高等学校」/左下・聖蹟公園の一角にある「北品川保育園」と「北品川児童センター」。/右下・「八ツ山保育園」
また街中には大小いくつもの公園が点在しており、日中は赤ちゃん連れのお母さんや仕事の休憩で訪れている方を見かけ、放課後になると近隣の子どもたちが元気に遊ぶ姿がありました。新馬場駅前には「品川・荏原保健センター」や「品川図書館」もあり、生活がしやすそうです。
▲ 上・遊具、グラウンド、投球場がある「港区立 東八ツ山公園」。背後に見えているのは「品川インターシティ」のビル群。/左下・「品川学園」の目の前にある「子供の森公園」。恐竜の遊具が並んでいます。/右下・亀の遊具が可愛い「台場浦公園」。
▲ 左・トレーニングジム、プレイコート、ゴルフレンジ、スタジオなどが入っている「品川・荏原保健センター」。/右・六行会複合ビルには「品川図書館」が入っています。
『御殿山』を冠するマンション多数
「北品川」駅から徒歩10分圏内の不動産成約情報について調べてみると、もう少し土地や中古戸建ての成約があるかと思いきや、圧倒的に中古マンションの取引が多い結果に。
▲ 東日本流通機構(REINS)に登録された、過去3年間(2023/1/1-2025/12/31)の成約事例を集計したもの(オーナーチェンジ物件を除く)。「北品川」駅より徒歩10分圏内のみを集計しており、同アドレス内でもそれを超えるものや未登録物件はカウントしていないため、全成約を網羅できているものではないことをご了承いただいた上で、ご参考までにご覧ください。(土地・建物・専有面積45㎡以上、価格の制限なし)
中でも北品川4・5丁目は成約したすべてのマンション名に『御殿山』が付き、北品川1丁目や3丁目でもちらほらとそう名乗るマンションが。いかに『御殿山』というワードがブランド化されているかが分かりますね。一方で『八ツ山』と付くものはひとつもありませんでした。
港南2丁目では品川インターシティの一角に建てられた「品川Vタワー」が高額で取引されており、『御殿山』と名の付く北品川4・5丁目のマンションも平米数が広く高額で取引されています。
▲ 左・2003年竣工、全650戸の巨大タワーマンション「品川Vタワー」。「品川」駅までスカイウェイを通ってアクセスできます。/右上・山手通り沿いに建つ2016年竣工の「プレミスト北品川」(写真奥)。/右下・『品川浦舟だまり』周辺にはマンションが多数建っています。
まとめ
取材と調査を元にまとめた「北品川」の特徴は以下の3つ。
・都会的な空気とノスタルジーのギャップが魅力
・同じ駅でも場所ごとにキャラクターが異なる
・子育てがしやすそう
誤解を恐れずに言うのであれば『非常にユニーク!』というのが正直な感想です。品川や天王洲アイルのオフィスビル群に囲まれて、なんだかここだけ時が止まったような感覚。旧東海道沿いの商店街ではご近所さん同士が立ち話をし、路地裏には井戸があって、運河には釣船や屋形船。教育施設や公園も多いことから、『ここで子育てしたら面白そう』と感じました。江戸の文化に触れ、商店街の人たちに見守られながら育つ我が子……素敵だと思いませんか?
駅を起点に西に行けば「御殿山」の邸宅街、東に行けば「天王洲アイル」のタワーマンション群と雰囲気がコロコロ変わるのも面白いところ。どこのエリアがしっくりくるか、街をくまなく歩いてお気に入りを見つけるのがオススメです。
おまけ 〜わたしの取材メシ〜
寒い1月の曇り空だったこともあり、取材の途中で「中華そば 和渦 TOKYO」さんへ駆け込みました。ツルツルと喉越しのいい自家製中太ストレート麺に、濃そうに見えてゴクゴクいけてしまう雑味のないスープ、大変美味しかったです! 早めに街歩きを終えてからは山手沿いで見つけた「天神湯」さんに立ち寄り、天然温泉の交互浴を楽しんだのでした。
▲ 左上・「特製醤油そば」。2種のチャーシューに2種のワンタン、煮卵まで乗った贅沢な一杯。/右上&下・リニューアルされイマドキな内装ですが、客層はご年配の方が中心で、そのギャップにキュン♡ 取材に行った水曜日は源泉黒湯が提供され(加熱なしでほぼ水温!)、熱めの湯船と黒湯を3回ほど交互浴。その後夜まで体はポカポカでした。