東京ライフスタイル探訪

【vol.4 三軒茶屋】人情街に緑の風穴、住む人を虜にする『三茶村』

皆さまこんにちは。東京の街を愛する宅地建物取引士、伊勢谷(いせたに)です。こちらの連載では東京の様々な街を “暮らす目線” と “不動産屋目線” でご紹介していきます

都心なのにどこかのんびり  展望ロビーから街を一望

今回訪れたのは「三軒茶屋」。東急田園都市線で渋谷から2駅、また2両編成のローカルな東急世田谷線の始発駅でもあります。世田谷区の中でも指折りの人気を誇るこの街の魅力は一体どこにあるのか、取材を通じて発見していきたいと思います。

 

まずは可愛い世田谷線にご挨拶!「三軒茶屋」という地名・駅名は、文字通りここにかつて3軒のお茶屋さんがあったことに由来しています。世田谷線は東急電鉄唯一の軌道線で、以前は 旧玉川線(通称:玉電)の一部でしたが、1969年に同線の渋谷~二子玉川園間が廃止された際、三軒茶屋~下高井戸間が独立して残り、名称も世田谷線となったのだそう。

左・田園都市線、小田急線、京王線の間を縦につなぐ役割として地元の方々に利用され、愛されている路線です。/右上・駅舎にいたのは「豪徳寺」の招き猫をモチーフにした “幸福の招き猫電車” 。これは幸先がいい◎/右下・駅舎は煉瓦造りで左右にランプが灯され、どこかクラシカルな雰囲気。

 

街歩きを始める前に、まずは街の地図を見てみましょう。駅の上を走る国道246号線(通称:玉川通り)から分岐しているのが世田谷通り、北へ向かって伸びるのが茶沢通り。駅周辺には趣の異なる商店街が複数あり、北には烏山川緑道、南には蛇崩川緑道が走っています。「世田谷公園」をはじめとして大きな公園があるのも魅力です。

そんな街の様子を一望できるのが、街のシンボル「キャロットタワー」26階にある展望ロビーです。窓から見える景色は超都心のスカイデッキなどとは違い、穏やかな住宅街。誰でも無料で入場することができ、立ち寄った際もたくさんの方が休憩されていました。地域に根付いているスポットなんですね。

左上・公募で中学生が “人参みたいな色だから” と名付けた「キャロットタワー」。そのエピソードにほっこり。/下・同フロアにはあのホテルオークラの伝統料理が楽しめる「レストラン スカイキャロット」や、ラジオ局「エフエム世田谷」のサテライトスタジオが。/左下・案内板と照らし合わせながら景色を見るのが楽しい。/右下・左手は背の高い建物が集中している世田谷通り沿い。右手は冒頭でご紹介した世田谷線の線路。住宅街を縫うようにして走ります。

生活のかおりがする  人と人が交わる街

さっそく様々な商店街を歩いてみましょう。全体として言えるのは東急ストア・西友・イオン・肉のハナマサ・マルエツ・サミットなど大型スーパーの選択肢が多いことと、八百屋・肉屋などの個人商店もあり、きちんと “生活のかおり” がして暮らしやすそうなこと。おしゃれな飲食店や古着屋、雑貨店なども散らばっており、歩くほどに新しい発見ができそうな点がとても魅力的だと感じました。

左上・一際賑わいのある「栄通り商店街」。16-18時は車両通行止めに。/右上・片側1車線のバス通り沿いには「ダイエー 三軒茶屋店・イオンフードスタイル」が。/左下・茶沢通り沿いは「三軒茶屋銀座商店街(通称:三茶しゃれなあど)」となっており、緩やかな坂道沿いに商店が軒を連ねています。/左下・茶沢通りから分岐する「太子堂中央街(通称:あい・あい・ロード)」は住宅街の中なこともあって比較的静か。

 

また以前 “夜の三軒茶屋” の取材をしたことがあるのですが、住民の方々が口を揃えて『ハシゴ酒を楽しむ』と仰っていたのが印象的でした。お気に入りのお店で飲み始めて、隣の方と仲良くなり、その方々と一緒に次の店へ、なんてことも日常とのこと。食を通じて人の輪が広がっていく……いまの時代、そういったことが起きる都心の街はなかなか聞いたことがありません。住民の方々もオープンマインドな方が多い証拠と言えるでしょう。駅周辺には有名な『三角地帯』をはじめとしてディープな飲み屋街も残っており、呑ん兵衛さんとっても楽しい街に違いありません。

左から「エコー仲見世商店街」「すずらん通り」「ゆうらく通り」。特にゆうらく通り周辺は迷い込むとまるでタイムスリップしたような感覚に陥ります。

自然と調和する  住みよい “三宿エリア” に注目

今回の取材で特に注目したのは “三宿エリア” 。「三宿」というアドレスは国道246号線の北側を示しますが、南に伸びる三宿通り沿いの太子堂・下馬・池尻周辺も含めてご紹介したいと思います。

“三宿エリア” は「三軒茶屋」駅と「池尻大橋」駅の中間あたりに位置し、どちらからも10分くらい歩きますが、その分混雑からは距離を取り、自然を感じながら暮らせる魅力があります。世田谷区の用途地域を調べると、三宿一丁目は主に第一種住居地域、三宿二丁目は第一種中高層住居専用地域に指定されており、商業が入り込めない閑静な住宅街になっていることが分かります。

左上・烏山川緑道。/右上・北沢川緑道。/左下・広場で談笑するお母さんたちの姿。/右下・「三宿の森公園」では元気に木登りする子どもたちを発見!

 

戸建て住宅が多く、マンションがあったとしても低層のものがほとんど。緑道沿いを歩くと空を広く見渡すことができ、とにかく気持ちがいいです。また「三宿の森公園」ではのびのびと走り回る子どもたちの姿を見かけました。

池尻アドレスとの境目にある「三宿・池尻」交差点付近にはオオゼキ、オーケーと人気のスーパーが近距離にあります。駅前まで戻らなくても買い物できる点はとても便利ですね。またこちらの交差点が「三宿通り」の起点となり、これからご紹介する国道246号線南側のエリアへと続いています。

左上・「三宿・池尻」交差点。/右上・国道246号線を越え、南側のエリアへ向かいましょう。/左下・街灯の下には「三宿」と書かれた旗が。/右下・三宿通り沿いはインテリアショップが多く、筆者もたまに買い物に出かけます。写真の「CRAFT CHOCOLATE WORKS」をはじめ、かき氷の有名店「和kitchen かんな」、去年28周年を迎えたサンドイッチ・ハンバーガー専門店「FUNGO 三宿」などこだわりの飲食店も多数あり、散策するのがとても楽しいエリアです。こちらのエリアにもスーパーサミットが。

 

「昭和女子大学」「陸上自衛隊 三宿駐屯地」「都営住宅 下馬アパート」などが広大な面積を保有していますが、それらの中でキラリと光っているのが「世田谷公園」の存在です。

広さは約8万㎡で、約54万㎡の「代々木公園」、約41万㎡の「駒沢オリンピック公園」に比べて小規模。ですが園内にはシンボリックな噴水広場をはじめ、野球場(サッカー場)、テニスコート、屋外プール、交通広場、スケートボード広場、プレーパーク、遊具広場など充実した施設が用意されており、園内をミニSLがほのぼのと走ります。平日に訪れても写真のように賑わっており、遠方からわざわざ遊びに来るというより、ご近所の方々が日常的にふらっと訪れるような憩いの場となっています。

上・東京で雪が降った直後の取材でしたが、寒い平日の日中でもこの賑わい。人口密度が高すぎないのがちょうどいい。/左下・水曜日と土日祝日に運行するミニSLは地元の子どもたちに大人気。/右下・プレーパークはNPO法人が運営しています。

 

駅から距離は離れるものの、自然あり、スーパーあり、知る人ぞ知る名店ありな “三宿エリア” は、やっぱり住む魅力に溢れているのでした。(余談ですが、筆者が敬愛する某有名女性タレントさんが『20年三宿から離れられないの』と公言されていて、そうですよね、いいですよね、と取材中何度も心の中で相槌を打ったのでした。)

『世田谷区は保育園に入れない』はもう古い?  最新の待機児童事情を調査

さて、「三軒茶屋」が人気な理由が十分わかったところで、気になるのはよく耳にする『世田谷区は待機児童が多い』という噂。せっかく街が気に入っても、親御さんが元気に働きに出られないと事情は変わってきます。そこで、世田谷区のホームページより「保育待機児童等の状況」を引用させていただきました。

(参照:世田谷区ホームページ「世田谷区 保育園待機児童等の状況」 最終更新日令和5年5月31日)

令和元年(2019年)には470名いた待機児童が、令和2-4年度まではゼロとなり、令和5年度には1歳児の10名のみとなっています。調べると、これは企業主導型保育所をはじめとする私立認可外保育所の増設が寄与しているとのこと。

では「三軒茶屋」駅周辺にはどのくらい保育園があるのでしょうか。以下は「世田谷区の保育施設」より引用させていただいたマップ。同じ世田谷区内でも三軒茶屋駅周辺はプロットされた数が多い(密度が高い)ことが分かります。

(参照:世田谷区ホームページ「世田谷区の保育施設」令和5年9月発行)

各保育園の倍率も調べようと思ったのですが公表されておらず、代わりに「認可保育園(空き数等)バックナンバー」を見てみると、令和5年4月1日掲載用の資料では1歳クラスはほぼ満員なものの、その他の年齢だと園によっては空きもある(つまり年度始めで満員にならなかった)ことが分かりました。早くから保育園に通わせたい場合、0歳から預け始めることを念頭に置き、それまでにこの地に移り住んでおくと良さそうです。

中古マンション取引が多いものの  中古戸建て、土地を買って新築戸建ての選択肢も

では三軒茶屋周辺に住みたい場合、どういった住まいの選択肢があるでしょうか。以下のマップは過去3年間、「三軒茶屋」駅より徒歩15分以内で成約した不動産の事例を筆者が独自にまとめたものです。さすが都心なだけあって、中古マンションの成約数が土地・中古戸建ての合計成約数のおよそ3.5倍という結果となりました。

東日本流通機構(REINS)に登録された、過去3年間(2021/1/1-2023/12/31)の成約事例を集計したもの(オーナーチェンジ物件を除く)。いずれも「三軒茶屋」駅より徒歩15分圏内のみを集計しており、それを超えるものや未登録物件はカウントしていないため、全成約を網羅できているものではないことをご了承いただいた上で、ご参考までにご覧ください。(土地は面積の制限なし、中古戸建は建物面積70㎡以上、中古マンションは専有面積40㎡以上、いずれも価格の制限なし)

 

上のマップを細かく分解してみましょう。土地・中古戸建ては取引総数が少ないため事例によって結果が大きく引っ張られてしまっていると思いますが、中古マンションの平均平米数はおおよそ60㎡で、平均築年数は1990年代のところがほとんど。これは単身向け〜ファミリー向け、旧耐震〜築浅なものまで幅広いラインナップがあることの現れです。

筆者が面白いと感じたのは隣り合う「三軒茶屋」と「太子堂」の対比です。三軒茶屋アドレスは土地・中古戸建てともに小規模なものが多いですが、中古マンションの取引件数は最多の66件。一方太子堂アドレスは土地・中古戸建ての取引が計17件と多く、中古マンションは最も平米数が広く、築浅という結果でした。今回の取材で注目した「三宿」では戸建てを選ぶと伸びやかに暮らせそうですね。

まとめ

取材と調査を元にまとめた「三軒茶屋」のポイントは以下の3つ。

・都心でありながら人肌感がある
・いつも自然がそばにある
・保育園は0歳入園を目指して先に引っ越すと『吉』

 

特に渋谷方面へのアクセスに優れ、駅前はいくつも商店街やスーパーがあって何でも揃いそうな充実ぶり。おしゃれなカフェから評判の高いレストラン、赤提灯の居酒屋まで、飲食店の種類と数も豊富です。それだけだといわゆる “都心の賑やかな街” ですが、少し歩いただけで緑道や公園という “風穴” にぶつかり、ほっと深呼吸できるのがこの街の魅力といえるでしょう。

以前の取材で住民の方が “ここは居心地のいい村のよう” とおっしゃっていたのがとても印象深かったのですが、今回の取材を通じてよりその言葉の意味を理解できた気がします。商店街を歩いても緑道や公園を通っても、子どもからお年を召した方まで様々な年代の方を見かけ、それぞれ思い思いの時間を過ごしていらっしゃる。押し付けがましくはないけれど、さりげなく会話が生まれるような、ゆるやかな “人との繋がり” を感じる街。住民の方々に愛され、一度住んだら離れたくなくなる理由がとても良く分かるのでした。

おまけ 〜わたしの取材メシ〜

国道246号線から栄通り商店街へ入ってすぐのところにある、1963年創業の「喫茶セブン」へお邪魔してきました。昔から三軒茶屋を訪れるとつい立ち寄ってしまう大好きなお店です。店内は木をふんだんに使い、丸いランプシェードが可愛いレトロでチャーミングな装い。喫茶店らしい王道のメニューが揃い踏みで、筆者は「オムナポ」をオーダー。懐かしい柔らか太麺、ソースたっぷりのナポリタンを卵で包み込んだ絶品です。座る席によって景色が変わり、ノスタルジーに浸れる心地いいお店なので、皆さまぜひ本を片手に行ってみてください!

左上・ロッジのような佇まい。入店すると手前の大テーブルでは地元の奥さま方が談笑していました。/右上・1階の様子。/左下・1階奥には天井が低くなったコージーなお席も。/右下・「オムナポ」。ナポリタンのソースと上にかかったケチャップはまた別のお味。とっても美味しかったです、ご馳走様でした!

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