東京ライフスタイル探訪

【vol.5 武蔵小山】令和と昭和、タワーの裏で鮮やかに咲き続ける風

皆さまこんにちは。東京の街を愛する宅地建物取引士、伊勢谷(いせたに)です。こちらの連載では東京の様々な街を “暮らす目線” と “不動産屋目線” でご紹介していきます

目黒区と品川区の区界

今回訪れたのは「武蔵小山」。ここ数年は駅前での大規模な再開発が大きな話題を呼びました。都心へのアクセスがよく、長いアーケード商店街があり、緑豊かな「林試の森公園」もあることから “本当に住みやすい街大賞2021(※)” で第1位に選ばれています。再開発によって街に変化があったのか、否か。取材へ行って確かめてきました。

(※ “本当に住みやすい街大賞2021” シニア部門で第1位。同ランキングは住宅ローン大手のアルヒ株式会社が、住環境や交通利便性などを基に専門家の審査により選定したもの。)

目黒通りと中原街道に挟まれた街

「武蔵小山」は東急目黒線で目黒駅より2駅・乗車時間約3分(急行利用)で、目黒駅まで行けば山手線はもちろん、東京メトロ南北線や都営三田線が乗り入れているため交通アクセスは良好。2023年には目黒線と相鉄線が相互直通運転を開始し、ますます便利になりました。駅近くに目黒区と品川区の区界があり、大通り沿い以外は戸建ての多い閑静な住宅街となっています。

街並みの変化は道半ば  今後の動向にも注目

筆者自身、駅前にタワーマンションが竣工して以来この街を訪れるのは初めて。かつての駅前には戦後闇市から歴史を持つ飲食店街、通称 “りゅえる” がありましたが、2014年から仮囲いの中で順次解体、2019年12月に「パークシティ武蔵小山ザタワー」、2021年6月に「シティタワー武蔵小山」が竣工しました。

左・地上に出ると巨大なマンション2棟が顔を覗かせます。/右・昔ながらの風情が残る、駅反対側の「武蔵小山 西口商店街」から見える景色も一変。

 

実は再開発は今後も続きます。「小山三丁目第1地区および小山三丁目第2地区」が再開発地に指定されており、第1地区は計画決定済み。2030年にはもう1棟、約850戸の巨大なマンションが新築される予定。また「武蔵小山商店街パルム(通称:パルム商店街)」の入口両脇にもタワーマンションが建設される予定で、こちらは2棟合計で約990戸となる予定です。
 

品川区議会『小山三丁目第1地区および小山三丁目第2地区再開発事業事業者による近隣説明会の開催について』より引用。

つまり5棟を合わせると合計3,000戸弱となる予定なのです。元々この地に住まわれていた方々も入居されるでしょうが、新たな住民も一気に増えますね。
 

「パークシティ武蔵小山ザタワー ザ モール」

 

呑兵衛な筆者、かつては駅地上に出ると焼き鳥「鳥勇(とりゆう)」から濛々と漂う煙と香りに心をときめかせたものですが、2024年3月現在は「パークシティ武蔵小山ザタワー」足元にある商業棟「THE MALL」が人々を出迎えます(ちなみに「鳥勇」は武蔵小山に本店を持ち、街中の3店舗目としてこちらのTHE MALLに帰ってきました)。それでは、街歩きへ出発です。

“東洋一” と呼ばれた商店街は  むしろ活気を取り戻した?

撮影したのはいずれも平日の午後。1日を通して人通りが絶えることはありません。

 

駅前から続くこちらの “パルム商店街” は昭和31年(1956年)に日本初の大型アーケード街としてオープンしたもので、完成時は全長470m、当時 “東洋一のアーケイド” と言われたそう。現在では北を走る中原街道まで約800mに延長され、店舗数は約250、東京で最も長いアーケード商店街となっています。
 

上・マスコットキャラクターの「パルくん」と「パムちゃん」。商店街に駐車場を併設したのも前衛的だったそう。/下・「パルム会館」に掲出されていた店舗マップ。

 

写真をご覧いただければ一目瞭然だと思いますが、人の多さに驚きました! 密度で言うと東京西側の大人気タウン、吉祥寺の「サンロード商店街」にも引けを取らない印象です。
 

うれしいのはチェーン店ばかりでなく、昔ながらの専門店や個人経営のお店も多く残っていること。バラエティに富んだラインナップで次から次へとハシゴしたくなります。スーパーやデパートで一気に買い物を済ませるのは効率的ですが、こういったお店を一軒一軒巡り、少しずつ買い物袋を満たしていくのもとても幸せですよね。

中原街道を渡った先には関東有数の長さを誇る約1.3kmの「戸越銀座商店街」もあり、商店街好きな方にとってたまらない生活環境となっています。

ちなみにスーパーも当然充実しています。/左・駅ビルには「東急ストア 武蔵小山駅ビル店」。/中央・武蔵小山一番通り沿いにある「オオゼキ 武蔵小山店」。/右・富士見通り沿いにある「ライフ 武蔵小山店」。そのほか商店街の出口付近には「業務スーパー 武蔵小山店」もありますよ。
 

魅力的なスポットは他にも

また街の方々から愛され、筆者としてもぜひ推したいスポットが「武蔵小山温泉 清水湯」。なんと都心の街中で天然温泉が楽しめるのです。開店は12時ですが(日曜日のみ8時)、オープン前には長い行列ができるほど大人気。随分前に、遠方から温泉療法に通っている方もいらっしゃると聞いたことがあります。お湯がいい証拠ですね。
 

「武蔵小山温泉 清水湯」は1994年に温泉を掘り当て、2008年にリニューアル。きれいな建物の半露天風呂で黄金湯と黒湯の2種類の温泉が楽しめます。

 

子育て中のご家族が訪れやすそうなスポットも発見! 街全体に小さな公園や緑道が点在していますが、雨の日に行ける場所があると助かりますよね。2箇所ほどご紹介します。
 

左・「後地児童センター」では遊びや工作、料理などの教室や、乳幼児親子を対象とした講座等を実施。/右・「FAMILY DINING ALL DAY HOME」はボールプールにジャングルジムなど小さなお子さまが遊べる遊具があり、さらにうれしい小上がり席あり、離乳食販売ありなど至れり尽くせり。

 

再開発が始まる前からこの街に住んでいる友人に話を聞くと、既に街を歩く人の数はかなり増えたとのこと。清水湯は時間帯によって大変な混雑で、最近はお隣駅・西小山の「東京浴場」に足を運ぶようになったと言っていました(笑)。人が増えれば経済が回る。街を魅力的な状態で維持していくためにも、再開発は必要な手段なのかもしれません。
 

手付かずの自然が残る  「林試の森公園」

そしてもうひとつ、この街を語る上で欠かせないのが駅の北側にある「林試の森公園」の存在です。面積は約12万㎡で、東西に700m、南北に250mと細長く、外周の園路は約45分で一周できるそう。明治13年(1900年)に当時の農商務省林野整理局が「目黒試験苗圃」としてスタートし、その後「林業試験場」に名称を変更、その時の樹木を活かし、平成元年に都立公園として生まれ変わりました。

人口密度は高くなく、先月取材に行った三宿の「世田谷公園」同様、地元住民の方が日常使いしている印象。

 

園内には複数の広場やせせらぎ、ジャブジャブ池、遊具があり、取材時もベビーカーを押すお母さんやジョギング、犬の散歩に訪れた方の姿を見かけました。ちょうど河津桜が見頃を迎えていて、お花見を楽しむ方々の姿も。とてもきれいだったので写真をお裾分けします!

河津桜以外にもソメイヨシノ、カンヒザクラ、ウワミズザクラ、ハナモモなど長い間桜を楽しむことができるそう。
 

駅前は地価が高騰  駅距離を伸ばすほど手が届きやすく

2014年に再開発の都市計画決定がされてから、駅周辺の地価は上昇を続けています。土地価格相場が分かる『土地代データ』によると、過去10年間で坪238万円から坪331万円まで伸び、その差は約1.4倍です。

過去3年間の成約データを集計すると、中古マンションの取引きは278件、中古戸建ては47件、土地は31件。やはり都心らしく、マンションの取引きが最多となりました。マップにまとめてみましたので参考までにご覧ください。

東日本流通機構(REINS)に登録された、過去3年間(2021/3/1-2024/2/29)の成約事例を集計したもの(オーナーチェンジ物件を除く)。いずれも「武蔵小山」駅より徒歩15分圏内のみを集計しており、同アドレス内でもそれを超えるものや未登録物件はカウントしていないため、全成約を網羅できているものではないことをご了承いただいた上で、ご参考までにご覧ください。(土地は面積の制限なし、中古戸建は建物面積70㎡以上、中古マンションは専有面積40㎡以上、いずれも価格の制限なし)

 

上のマップを細かく分析すると、以下のようになります。再開発地となっている駅周辺の「品川区小山」が土地・中古マンションともに最高値。特に中古マンションは89件と取引数も最多ですが、これは記事冒頭でご紹介した2棟のタワーマンションが既に中古市場で流通し始めているためです。

また土地・中古戸建て・中古マンションの3種を比べると、マンション建設ラッシュに引っ張られてか、中古マンションの成約坪単価が最も高い結果となりました。


土地・中古戸建てを検討するのであれば、線路北側の方が見つけやすく、環境も良さそう。武蔵小山を起点として南北を確認すると、南は池上線の線路まで約1kmで、荏原・小山・西五反田・平塚アドレスは広い範囲が準工業地域に指定されていることが分かりました。一方の北側は目黒通りまで約1.2km、東横線の線路までは約2kmと距離が開き、ほとんどのエリアが住居地域に指定されています。
 

左上・駅前からパルム商店街と並走する「小山26号線通り」沿いにはマンションがずらっと並んでいます。/右上・「旧中原街道」沿いを歩いていると材木店や鉄工所など準工業地域らしい工場をちらほらと見かけました。/左下・「林試の森公園」北側の住宅街。/右下・「林試の森公園」西側も戸建て住宅が並ぶ閑静な住宅街となっています。

 

また中古マンションは平均平米数が60㎡ほどなのに対し戸建ての建物面積は100㎡前後ですから、ご家族4人以上で住むなら中古戸建ての購入や、土地を購入して戸建てを新築する選択肢も良さそうです(前述のように売り物自体少ないですが……)。ただし土地面積は平均80㎡強で建ぺい率60%の制限を受けるところが大半なので、ワンフロアあたりの面積が少ないペンシル型の建物となる可能性が高いでしょう。
 

まとめ


取材と調査を元にまとめた「武蔵小山」のポイントは以下の3つ。

・商店街好きにはたまらない環境
・街の変化をダイナミックに体感できる
・中古戸建て、土地を買って新築の選択肢もアリ


交通利便性良好、商店街あり、自然ありで暮らしやすそうな要素が揃い踏みしている「武蔵小山」。再開発が進むとますます人口密度が高くなりそうなことは少々気になりますが、そのぶん街を彩るコンテンツは一層増えていくはずです。そんな変化を柔軟に受け止め、身軽に “暮らしこなす” 気概のある方に向いている街だと思いました。

おまけ 〜わたしの取材メシ〜

取材中、急遽親友のおうちに遊びに行くことになりました。せっかくなので街のグルメをお土産にしようと張り切り、かつて駅前で “美味しい煙” を上げていた「鳥勇」さんに伺い焼き鳥とうなぎ串をゲット。続いて美しすぎるパフェが有名な「patisserie de bon coeur(パティスリィ ドゥ・ボン・クーフゥ)」さんでガトーピスターシュとモンブランを購入。どちらも大変美味で、親友も喜んでくれたのでした。
 

左・「鳥勇 一番通り店」。焼き鳥タレはイートイン(立ち食い)だと自分でつけるスタイルですが、持ち帰りだと別添えしてくれるので味の調整が可能。ひとつひとつのお肉が大きくジューシーで食べ応え満点! 1歳の娘にはつくねをお裾分けし、いたく気に入っていました。/右・ケーキが美味しかったのも言わずもがなです。ご馳走様でした!

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