【vol.20 幡ヶ谷】人情・感度・距離感。ファミリー必見、渋谷区の “穴場タウン”。

皆さまこんにちは。東京の街を愛する宅地建物取引士、伊勢谷(いせたに)です。こちらの連載では東京の様々な街を “暮らす目線” と “不動産屋目線” でご紹介していきます。

今回訪れたのは「幡ヶ谷」。『谷根千(やねせん)』= “谷中・根津・千駄木” と同じように、『ササハタハツ』= “笹塚・幡ヶ谷・初台” と3つの駅名をまとめた造語が耳に飛び込むようになったのは令和に入ってから。筆者自身 “渋谷区の穴場タウン” と常々推しているこちらの街の魅力について、今回はじっくりお伝えしていきたいと思います。
渋谷区の北西端 自転車が強い味方に
「幡ヶ谷」はお隣「笹塚」から分岐する京王新線の駅。つまり京王(本)線だとスキップされてしまうので注意が必要です。「新宿」駅まで2駅、乗車時間約4分。エリア内はバス便が充実しており「渋谷」行きに乗れば約20分で到着可能。

▲ 渋谷区のせり出た位置にあるため、中野区・新宿区・杉並区・世田谷区との区界が近いのが特徴。

▲ 甲州街道、山手通り、環状七号線と主要な幹線道路に囲まれており、首都高速道路にもすぐ乗ることができるため車移動にも優れた立地です。
しかしここでオススメしたい移動手段が、電車でもバスでもなく『自転車』!「新宿」にも「渋谷」にも10分ほどで到着可能ですし、「下北沢」や「代々木上原」など感度の高い街にもすぐなのです。街中にはオシャレな自転車屋さんがいくつもあり、グッズを探しに行くのだけでも楽しいですよ。

▲ 筆者がお世話になっている2軒。左はかつてロードバイクをフルカスタムした「BLUE LUG HATAGAYA」。右は電動ママチャリとキッズバイクの専門店「TANDEM」。植物屋さんも併設しています。
『ササハタハツ まちラボ』とは?
ササハタハツエリアでの暮らしの質向上を目的に、渋谷区・京王電鉄・一般社団法人渋谷未来デザイン・株式会社東急不動産などが産官学民が構成する場・仕組み・組織。2019年からまちづくりワークショップが開催されており、対象エリアは渋谷区まちづくりマスタープラン(令和元年12月・渋谷区)における地域区分「笹塚・幡ヶ谷・初台・本町地域」が指定されています。

▲ 上・プレスリリース『ササハタハツエリアのまちづくり共創プラットフォーム「ササハタハツまちラボ」を設立』より引用/下・都営アパートの1階にあった「START Box ササハタハツ」。空き店舗を活用し、アーティストの作品づくりのための環境を利用しやすい料金で貸し出しています。
実施事業は生まれたプロジェクトの実装に向けた支援や渋谷区との連携、公共空間利活用の検討やビジョン策定、エリア内外への情報発信、持続可能な組織にするための人材・資金確保の体制構築など。
暮らす街でこのようなコミュニティが活動しているのは何だか安心だし刺激的。自らもその一員として参加できるよろこびも感じられそうです。詳しくはWEBサイトをご覧ください。
キャラが異なり それぞれに活気ある商店街
「幡ヶ谷」の魅力は毛色の異なる商店街が複数あり、いずれも活気に満ちていること。「新宿」や「渋谷」という巨大ターミナル駅まですぐでありながら、ローカルな雰囲気で人情に触れられるのも大きな魅力です。
六号通り&六号坂通り商店街
甲州街道の北側、水道道路を挟んで南北に続くふたつの商店街で、その長さは約500m。八百屋さんにお肉屋さん、和菓子屋さんなど老舗が並ぶ中、わざわざ訪れたくなるような美食の名店も散らばっています。

▲ 上・水道道路から撮影。/中央左・“六号” の由来はかつてこの地にあった淀橋浄水場に水を送るための水路にかかっていた端のひとつ「六号橋」にちなんでいるのだそう。/中央右・1926年創業の「ふるや古賀音庵 本店」。擦り胡麻たっぷりのお団子とモチモチのどら焼きをお土産に。/左下・大田市場直売店「八穂昭」。/右下・お惣菜も充実したお肉屋さん「グルメ・ナカムラ」。
西原商店街
一方こちらは甲州街道の南側。「代々木上原」方面へと抜けるこちらの商店街沿いには老舗も残るものの、近年は感度の高いショップが次々オープンしています。なんだか振興組合の “チャレンジしたい人welcome” な優しい姿勢が感じられるようで、通る度にわくわくさせてくれる商店街です。

▲ 上・西原商店街の全長は約350m。/中央左・おまけで登場するPADLLERS COFFEEの姉妹店「BULLPEN」。日用雑貨や作家ものを扱っています。/中央右・根強いファンを持つ餃子の「你好」(2階)。/左下・商店街に面する銭湯「仙石湯」。/右下・最近海外からのお客さまも多そうな「ELLA RECORDS」。
なお、こちらのほか甲州街道沿いをメインとする「幡ヶ谷商店街」、初台方面へと抜ける「ふどう通り商店街」、笹塚駅との境目にある「京王クラウン街笹塚」など場所ごとに異なる商店街が存在します。
スーパーも充実
甲州街道の南北に「ライフ」「ダイエー」があるだけでなく、六号通り商店街沿いには「三徳」、中野通り沿いには「サンディ」があるなど選択肢が豊富です。

子育て施設が充実 公園や緑道も
「渋谷区保育園マップ」を確認したところ、園の多さは渋谷区トップレベル。ぐるりと街を一周すると大きな施設がそこここにあることに驚きます。コミュニティセンターやスポーツセンターでは子ども向けの教室がひらかれていたり、大人向けの各種イベントも開催されているため、ご家族みんな心身ともに健康な日々が送れそうですね。

▲ 左上・2025年4月に屋外エリア、6月に屋内エリアがオープンしたばかりの「渋谷区本町コミュニティセンター」。/右上・運動場、体育館、プールなどを備えた「渋谷区スポーツセンター」。/左下・「中幡小学校 温水プール」は学校が利用しない時間帯、渋谷区民に開放されています。/右下・「渋谷区立笹塚こども図書館」。西原エリアにも図書館がありますよ。
また水道道路沿いには趣向の異なる大小の公園が点在していたり、駅の南北に緑道があるなど、お散歩や遊びにぴったりなスポットがたくさん。取材時には近隣の保育園に通う園児たち、放課後緑道で遊ぶ小学生たち、木陰で涼むご高齢の方を見かけました。

▲ 上・「幡ヶ谷第三公園」には流れがあり、夏場はじゃぶじゃぶ池が楽しめます。/左下・白いドーム型公衆トイレが目印の「七号通り公園」。/右下・駅の北側には和泉川を暗渠化した「幡ヶ谷新道公園」。/左下・駅の南側には玉川上水旧水路「幡ヶ谷緑道」。
価格をおさえるなら甲州街道より北側がオススメ
「幡ヶ谷」駅より徒歩15分圏内の過去3年間不動産成約情報を独自に調べてみたところ、土地・中古戸建て・中古マンションともに数が多かったのは『甲州街道より北側のエリア』でした。

▲ 東日本流通機構(REINS)に登録された、過去3年間(2022/6/1-2025/5/31)の成約事例を集計したもの(オーナーチェンジ物件を除く)。いずれも「幡ヶ谷」駅より徒歩15分圏内のみを集計しており、同アドレス内でもそれを超えるものや未登録物件はカウントしていないため、全成約を網羅できているものではないことをご了承いただいた上で、ご参考までにご覧ください。(土地 / 建物 / 専有面積45㎡以上、いずれも価格の制限なし)
細かいですが集計した一覧は以下。

▲ ふたつの駅の徒歩10分圏内の中古マンション成約を比較したチャート(集計期間:2022/3/1-2025/2/28)。
平均平米数にこそ違いはあるものの、件数や築年数はほぼ同じ。それでいて成約価格や坪単価の差が顕著に現れています。
今回改めて「幡ヶ谷」駅から徒歩15分圏内で『甲州街道の南北』を比較すると、以下のような結果に。

こちらでは件数・平米数・築年数はほぼ同じで、価格と坪単価に大きな差があることが歴然。総じてなるべく価格をおさえて物件を購入したい場合、『甲州街道より北側』を狙っていくのがオススメです。

▲ 左上・幡ヶ谷3丁目に所在する「幡ヶ谷ハイムグランシス」(1998年竣工)。/右上・幡ヶ谷2丁目に所在する「幡ヶ谷ハウス」(1976年竣工)。/左下・幡ヶ谷3丁目、水道道路から1本奥まった住宅街。/右下・幡ヶ谷緑道近く、西原2丁目の住宅街。
どうなる? 都営アパート
「幡ヶ谷」の不動産事情を考えた時、ぱっと頭に浮かぶのが水道道路沿いに建つ27棟の都営住宅。2024年3月に渋谷区と東京都が幡ヶ谷2丁目の「幡ヶ谷社会教育館」等と隣接する住宅跡地を一体整備するための協定を締結ましたが、“地元自治体と協議する段階” としており、具体的な計画はまだ発表されていません。

▲ 上・水道道路の先に見える新宿のビル群が印象的。写真右手側に都営住宅がずらっと並んでいます。/下・「社会教育館前」交差点。ふたつの商店街を横断するため、たくさんの人が行き交います。
今回の取材中、いくつか大規模なマンション建設現場を目撃しました。これだけ充実した環境なので、居住地として人気を集めるのも頷けます。10-20年先には街並みに変化があるかもしれませんね。
まとめ
取材と調査を元にまとめた「幡ヶ谷」のポイントは以下の3つ。
・甲州街道の北側が狙い目
・自転車を使いこなすと楽しさUP
・今後のまちづくりに注目
やはり声を大にして言いたいのは “渋谷区の穴場タウン” であるということ。街中を練り歩くと区営施設の多さや商店街の賑わいに心踊り、以前より抱いていたイメージが確信に変わりました。公共交通機関の利便性だけに着目すると見落としてしまいそうですが、自転車を駆使してこの充実した環境を思い切り楽しんでいただきたいものです。
最後にちょっと壮大な話をしますが、個人的に「幡ヶ谷」のイメージと重なるのがニューヨークの街の変遷。中心部の地価上昇によって住めなくなったアーティストなどがソーホー地区へ移り住み、またそこの地価が上がりブルックリン地区が開拓されました。現在ではブルックリンすらも高くて住めない地域になっているようですが、こうした都市の現象を “シェントリフィケーション” と言ったりします。「幡ヶ谷」も近い将来ぐっと地価が上がるのではないか……そんな予想を添えて終わりたいと思います。
おまけ
この日もあっちへこっちへ移動したため、以前から大好きな水道道路沿いの「SUNDAY BAKE SHOP」でココナッツとパイナップルのケーキ、ブラウニーをテイクアウト。公園でささっと食べたあと、西原商店街をオシャレエリアへと押し上げた火付け役「PUDDLERS COFFEE」でひと息ついて帰ったのでした。

▲ 当初は店名の通り日曜日しか営業していなかった「SUNDAY BAKE SHOP」ですが、最近はカフェも含めて営業日がぐっと増えてうれしい限り! 美味しいお菓子とアイスとコーヒー、近所に住んだら通ってしまうこと間違いなしです。

▲ 西原商店街から角を曲がったところにある「PADDLERS COFFEE」。店内もテラスも雰囲気 “◎”。このカフェを目指して外の街からやってくる若い方も多いですが、ご常連もかなり多い印象でした。