東京ライフスタイル探訪
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【vol.24 城南五山】山手線の内側に連なる、歴史ある5つの邸宅街

皆さまこんにちは。東京の街を愛する宅地建物取引士、伊勢谷(いせたに)です。こちらの連載では東京の様々な街を “暮らす目線” と “不動産屋目線” でご紹介していきます。

今回ご紹介するのは “城南五山” と総称される、目黒駅〜品川駅間に位置する「花房山」・「池田山」・「島津山」・「御殿山」・「八ツ山」の5つのエリア。それぞれ大名屋敷や大名出身の邸宅があり、明治期に入ると財閥や実業家の邸宅へと引き継がれた由緒ある土地です。
 

山手線内側に点在する 5つの小高い丘

まずはMAPでそれぞれの位置を確認しましょう。山手線の線路内側をなぞるように存在し、規模は様々。いずれの名称も住居表示上には存在しませんが、エリア内を歩くと “◯◯山” と付くマンションを多く見かけます。

それぞれの名称の由来と大凡の住居表示をまとめてみました。その地に屋敷や邸宅を構えた人物の名前を冠にした例がほとんどです。
 

参考:しながわ観光協会「御殿山 八ツ山を巡る」

5つのエリアを順に歩きながら、その特徴をお伝えしていきます。
 

花房山

目黒の駅前から線路に沿うように「花房山通り」が始まり、石垣を境に道が分岐します。坂を上った高台には小〜中規模のマンションや戸建て住宅が並び、急な階段を反対側へ下りると都内でよく見る戸建ての住宅街となっていました。5つの山の中でも比較的コンパクトで、電車の音を最も近くに感じます。
 

▲ 左上・花房山通り入り口。「目黒」駅前から「五反田」駅前の桜田通りまで続いています。/右上・まず出迎えるのは2017年竣工、総戸数940戸の「ブリリアタワーズ目黒」。/下・石垣を上った先が花房山エリアですが、その手前にもいくつか “花房山” と付くマンションが存在しました。
 

▲ 上・花房山の邸宅街。/左下・高台の奥に建ち、一際貫禄漂う1985年竣工の「ペアシティ花房山」。/右下・旧花房邸の跡地に建っている「駐日コロンビア大使館」。

▲ 上・花房山の頂上から五反田方面(南東)を見たところ。/左下・頂上付近は広くないため『この先通り抜けできません』の標識が。/右下・線路とは反対側の、東側へと下りる長い階段。

池田山

花房山通りを進み北品川四谷線(上には首都高速道路)を越えると池田山エリアに突入します。マンション名に注意を払いながら歩くと “池田山” と付くものは広範囲に渡って存在し、池泉回遊式庭園「池田山公園」や、上皇后陛下・美智子さまのご実家跡地に整備された「ねむの木の庭」を擁することもあって、規模感と迫力は随一。邸宅街の外周に「NTT東日本関東病院」やセンスのいいカフェやベーカリーがあり、暮らしやすそうな点も魅力です。
 

▲ 左上・花房山通りと北品川四谷線の交差点。/右上・「gicca(ジッカ)IKEDAYAMA」はカフェやレストランだけでなく、パティスリーやデリ、グロッサリーも併設するお店。/下・池田山の邸宅街に突入。
 

▲ 「池田山公園」。池田家の下屋敷を品川区が買い取り、1985年に開園。起伏に富んだ地形を活かし、高台から池を覗き見るような形につくられた池泉回遊式庭園です。管理の行き届いた園内では数々の植物が肩を寄せ合い、お散歩に訪れた園児たちともすれ違いました。
 

▲ 上・池田山公園の外から「品川区立 第三日野小学校」を見下ろした画。/下・「NTT東日本関東病院」

▲ 池田山の邸宅街。街路が碁盤の目のように整備されており、立派なお屋敷が建ち並んでいます。右下は能舞台がある「池田山舞台」外観。
 

▲「ねむの木の庭」。上皇后陛下・美智子さまのご実家・下田家跡地に整備され、2004年に開園。美智子さまゆかりの樹木や、お歌の中で詠まれた樹木や草花約50種が植えられています。中央のシンボルツリー・ねむの木は、6月中旬ごろに可憐な花を咲かせるのだとか。
 

▲ 上・「五反田公園の桜並木」。しながわ百景にも選ばれているこちらの石畳を上ると池田山の邸宅街に到着します。/左下・カフェスペースも併設されたベーカリー「Bread&Coffee IKEDAYAMA」。地元の方や近隣で働く方で賑わっていました。/右下・桜並木を抜けると「五反田」駅前の喧騒。一気に現実に引き戻され、なんだか不思議な感じ。

島津山

「清泉女子大学」の広大な敷地はかつて旧島津家本邸があった場所。現在も敷地内に英国人ジョサイア・コンドルが設計したルネサンス様式の洋館が残されています。正門前の通りを上っていくと島津山エリアに到着です。そのまま北へ進むと「高輪台」駅も利用可能で、敷地の東側は港区高輪と接しています。線路から離れているためか、5つの山の中では最も閑静に感じました。
 

▲ 上・「清泉女子大学」正門前。/左下・邸宅街へと続く坂道。両側に立派な戸建て住宅が並んでいます。/右上・“高輪エリア” との間には、花房山と同じく長い階段が。

御殿山

一旦 “高輪エリア” を経由し、坂道を下ると御殿山エリアに突入。ここまで来ると「大崎」駅に近く、駅前は再開発によりタワーマンションが中心ですが、御殿山エリアに入るほど低層になっていく印象を受けました。築浅マンションの下は公開空地として地域にひらかれていることが多く、緑の多い街並みも特徴です。表通りから裏に入るとまたしても邸宅が建ち並び、この辺りは凛とした空気が漂いつつも、学校、児童館、図書館、公園、小児科などが揃い、子育て施設が充実した印象です。
 

▲ 大使館や迎賓館が並ぶ北品川6丁目の坂の上から御殿山エリアを見た画。高級老人ホーム、2011年竣工の高級賃貸マンション「プライムメゾン御殿山」、その敷地の間に公園や庭園が存在し、圧巻の眺め。

▲ ソニー株式会社が本社を構えた跡地に、2011年に誕生したオフィスビル「ガーデンシティ品川御殿山」。
 

▲ 左上・「御殿山小学校」/右上・「Canadian International School Tokyo」。中目黒のほか大崎にもキャンパスがあります。/左下・目黒川や公園近くにある「小関児童センター」。/右下・1985年竣工、286戸が入る大規模マンションの低層棟には小児科や歯科、幼児教室などが入っています。
 

▲ 左上・御殿山通り沿いにある「駐日ミャンマー大使館」。/右上・2005年竣工、全104戸の「御殿山ハウス」。第一種低層住居専用地域にありながら、四方に公開空地を設けることで地下2階付き地上7階建ての規模を実現させました。/下・御殿山エリアの住宅街。こちらも街路は碁盤の目のように整備されていますが、“池田山” に比べると間口の狭い住宅が多い印象です。

▲ 1990年竣工のオフィスビル「御殿山トラストタワー」。「東京マリオットホテル」と隣接し、国際ビジネスの拠点となっています。その裏に広がる「御殿山庭園」。江戸時代、桜の名所として知られた御殿山の面影を感じられます。

八ツ山

ここまでにご紹介したエリアは “◯◯山” と名の付くマンションが多かったのですが、八ツ山は高輪アドレスとなるため “△△高輪” というマンション名が多く、歩いていてその存在を実感しにくくなっています。迎賓館「開東閣」やヴィンテージマンション「ペアシティルネッサンス」が広い敷地を有し、「プリンスホテル」と隣り合っているのが特徴です。
 

▲ 左・八ツ山の名残は交差点や橋、通りの名称から窺い知ることができます。JR線と京急本線が交差するところに架かる「八ツ山橋」。そこから旧東海道と並走するように「八ツ山通り」が走っています。/右上・三菱グループが有する旧岩崎家高輪別邸の「開東閣」。/右下・アプローチ部分から威厳が漂い、テニスコートなども有する1980年竣工、全247戸の「ペアシティルネッサンス」。
 

▲ 長い街歩きを終え「品川」駅高輪口に到着です。

土地や戸建ては売り出しが少なく 中古マンション成約は「御殿山・八ツ山」に集中

エリア自体に明確な定義がないため、記事の冒頭で挙げさせていただいたアドレスを目安に、過去3年間の不動産成約について調べてみました。

▲ 東日本流通機構(REINS)に登録された、過去3年間(2022/10/1-2025/9/30)の成約事例を集計したもの(オーナーチェンジ物件を除く)。土地 / 建物 / 専有面積いずれも70㎡以上、いずれも価格の制限なし。

山手線の目黒〜品川駅での成約数と城南五山の成約数をまとめた表が以下です。

▲ 検索対象住居表示 → 花房山:上大崎3丁目/池田山:東五反田4・5丁目/島津山:東五反田1・3丁目/御殿山:北品川3〜6丁目/八ツ山:高輪3・4丁目

土地については40件の成約の内、城南五山はわずか4件。中古戸建ても71件中8件、中古マンションは824件中140件と数は多くありません。他と比べ御殿山と八ツ山のマンション成約数が多い点は興味深いですね。また同アドレス内で『マンション名に “◯◯山” と付くもの』の数も集計してみたのですが、やはり「八ツ山」はゼロでした。

まとめ

取材と調査を元にまとめた “城南五山” の特徴は以下の3つ。

・駅前からは一線を画す空気感
・大使館などが多く治安が良い
・住宅街自体は閑静だが、電車の騒音が気になる場所も一部に見られました

いずれも商業エリアから切り離され、ある種 “閉じた世界” のように独特のオーラをまとっている印象を受けました。基本的にお住まいの方々しか立ち入らないため、人の出入りが少なく、治安がいいからこそ大使館がとても多く(取材中何件見かけたか数えきれないほど)、大使館があるからまた治安が良くなるという、良い循環が叶っているように感じました。

お屋敷と呼びたくなる敷地面積の広い戸建て住宅が並び、マンションも低層で総戸数が少ないファミリータイプが中心。各エリアのど真ん中は売り出し自体が少なく、販売されたとしても億を超えるものがほとんどです。坂道とは切っても切れない土地柄ではありますが、車を所有するご家庭が多いからか、どこも歩いている人自体まばらでした。

筆者の個人的な感想を述べると、生活利便施設を重視するなら「池田山」、子育て環境を重視するなら「御殿山」がオススメです。
 

おまけ 〜わたしの取材メシ〜

池田山から島津山に移動する途中、1950年創業の老舗洋食店「グリル エフ」さんに立ち寄りました。蔦が這う煉瓦調の建物は歴史を感じさせ、そのノスタルジックな世界観は店内にも続いています。きびきびと動くコックさんたちを眺めながら名物のハヤシライスをいただき、大満足で街歩きを再開したのでした。とっても美味しかったです。ご馳走さまでした!
 

▲ 左・五反田駅前の路地にひっそり佇んでいます。/右上・照明が落とされたムード満点の店内。/右下・ハヤシライスは創業時以来継ぎ足しのほろ苦いデミグラスソースが特徴。たっぷりのお肉と玉ねぎがたまりません。付け合わせで供される薬味で味変を楽しみながら、最後まで美味しくいただきました。
 

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